小説 色の無い街と夢の記憶①

小説 色のない街と夢の記憶

「新しくできたこのシステムによって、個人個人のデータを分析、犯罪を犯しそうな人を見つけます。そして、実際に何か起きる前に、いち早く逮捕してくれるのです。このおかげで私たちの安全は守られています。皆も知っている通り、個人のデータは信用スコアという形で、数字で表されています。それを見れば、誰がどんな人か、すぐに分かるのです」
教室の一番前の席で、私は先生の話を聞いている。
疑問に思う事があっても、聞いたりするとまた先生からも皆からも笑われるだけだし。
何を思っても心の中に止めておく。

「そういう事って、言わない方がいいと思うよ。そういう事言う人って協調性が無いんだよ。気を付けないと、高校へも行けなくなるからね」
私が何か質問したりすると、いつもこういう言葉が返ってきた。
クラスの中でも目立つ存在の子が言うと、正しいというオーラが出るんだろうか。
皆頷いて「変な奴がまたなんか変な事言った」という目で、一斉に私を見た。

この前は、何を聞いたんだっけ。
そうだった。個人個人の遺伝的傾向を調べて、どんな病気にかかりそうか見て、その部分の遺伝子に手を加えて、病気にならないように出来るとか。
場合によっては、摘出しても健康上問題ない臓器やその一部をあらかじめ取り除くことによって、将来病気にならないで済むとか。
犯罪を犯しそうな傾向がある人の脳に手を加えると、従順でおとなしい性格になるとか。
そういうのが実際もう試され始めてるようで、これから世の中がどんどん良くなるとか。

人間の体って、そんな風にいじっていい物なの?
人間だけじゃない。他の存在達も。
遺伝子操作とかで手を加えない限り、人間も、動物たちも、虫たちも、植物たちも皆自然のままに生きてるのに。
「無くても差し支えない臓器」なんて。
無くていいなら、最初から体に備わってないはずじゃないの?
元々あるその人の個性を、そんなに好き勝手に変えていいの?
従順でおとなしいのが「望ましい状態」って、いったい誰の基準?

洪水のように疑問が湧いてくる。
けど誰も、そんな事思ってないみたい。
誰にも言えない。
でも、ずっとこんなとこで生きていくのは嫌だ。
苦しい。
高校なんか別に行けなくてもいいよ。


寮の部屋に帰るとやっと一人になれる。
学校なんか本当は行きたくない。
お父さんもお母さんも、そんな事は分かってくれなかったけど。
今の中学なら、よほどの事が無い限り高校までそのまま上がれるから安心らしい。
それでも「協調性の欠如」というところでランクが下がれば、強制退学にもなりかねない。
勉強は好きではないけれど、何とかギリギリついていっている。
「問題発言」をして評価を下げるようなことが無ければ、大丈夫らしい。
とにかくこのままやり過ごすしかない。
お父さんもお母さんも、心配して言ってくれてるのは分かるし。


自室の机に突っ伏して考えているうちに、いつの間にか寝てしまったらしい。
起きて時計を見ると30分くらい経っていた。
またあの夢を見た。
あの場所。絶対に見た事があるような気がする。
ずっとずっと前。
まだ小学校にも行ってない頃。
夢を見るたびに、あれが何なのか自分でも調べてみた。
写真でしか見た事ないような、茅葺き屋根の家があった。
今皆が住んでいるようなマンションとは、まるで違う家と暮らし。
低い山が連なっていて、田んぼがあって、細いあぜ道があって、畑もあった。
私は、裸足で土の上に立った。
ひんやりと冷たい土の感触が気持ちいい。
頭の中にあったモヤモヤが、スーッと足元に降りていく。
体全体で呼吸しているような感覚。
そのままゆっくり歩いてみる。
大地を踏みしめて一歩ずつ。

今、地球と繋がっている。
そんな感じ。

私は私。このままでいい。
そんなフレーズが下りてきた。

この夢を見るたびに、細かいところが少しずつ、はっきりしてきた。
最初はモノクロの写真で見ていたのが、色が付いた感じ。

私は一人?
そうじゃないみたい。
おじいちゃんと、おばあちゃんが居る。
それから猫が居る。
犬も居る。
向こうから誰か来てたみたい。
誰なんだろう。
よくわからない。

今日はここで目が覚めた。
いつか、これが何なのかはっきりするかもしれない。
田舎だという事は分かるから、田舎の写真を片っ端から検索して見ていけば何か引っかかるかも。
おじいちゃんとおばあちゃんがどこに住んでいるのかは、お母さんに聞いてもはっきり教えてもらえなかった。
「田舎の方」と言われただけ。
私にあんまり聞いて欲しくないし行って欲しくない事は、雰囲気で何となくわかった。

けど、これだけは、諦めるわけにいかない。

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