小説 色の無い街と夢の記憶⑨

小説 色のない街と夢の記憶

楽しかった冬休みが終わり、いよいよ三学期になった。
学校はやっぱり面白くない。
ここは自分が居るところじゃない。
そんな気がする。
何とか授業にはついていってるけど時々頭の中で、どこかに遊びに行ってる。
ブログに今度何を書こうか。
ユーチューブで何を配信しようか。
春に植える野菜はどんなのがあるのかな。
東京でも田舎はあるようだからもっと調べたい。
早く春休みにならないかな。京都行きたい。
こんなことが、自然に浮かんできて、今聞いている内容が入ってこない。
そんな事が度々ある。
その間授業を聞いてないから、何の話だったか分からない。
今が一月下旬。
このまま二月、三月の下旬まで。
あと約二ヵ月。
この間何とか頑張って通えば、中学は卒業できる。
それくらいと思えば何とか耐えられるかも。
けど、このまま高校に進んだら、またさらに三年。
こんな気持ちで我慢して頑張って通うのか。
三年。
そう思うと気が遠くなってくる。
辛い。無理。
こうなったら言おう。やっぱり。
お父さんもお母さんも、きっと激怒するだろうし、お母さんには泣かれるかも。
それを思うと気が重くてずっと「今は考えまい」と思ってきた。
でももう言わないと・・・
言える勇気が無いだけで高校へ進んで、それでいいわけない。


週末、前もって連絡せずに突然家に帰った。
普通は、私も含め、春夏冬休みと五月の連休以外帰らない人がほとんどだけど。
急に帰ると連絡すると、特別何か話があるのかと思われてしまう。
聞かれても電話では話したくない。
電話だと、自分の気持が伝わらない気がする。
決心が変わらないうちに、会ってちゃんと話す。

帰った時はちょうど夕食時で、お父さんもお母さんも家に居た。
二人とも土曜日も仕事だけど、この時間には仕事も終わるらしい。
私が急に帰ったから、私の分も用意してくれた。

他の話題になったら言えなくなりそう。
早いうちに言おう。

「何かあったの?」
お母さんの方から聞いてくれた。
急に帰ってきたし、何かあったと思うのも自然かも。
「あのね・・・私、高校には進みたくない。中学はあと少しだから頑張るけど」
言えた。
遠まわしに言っても伝わらないし直球で。
答えは?
沈黙。
さっき「いただきます」を言って、食べ始める前にお母さんが聞いてくれて私が答えた。
お母さんもお父さんも、もそのまま固まってご飯に手を付けない。
ただ、沈黙。

時計の針の音が聞こえる。
自分の心臓の音も聞こえる。
何か言ってよ。
壁にかかっている時計の秒針を見つめる。
1分、2分、3分・・・
沈黙。
気まずいよ。
「いじめられているとか、学校で何かあったのか?」
やっと、お父さんが聞いてくれた。
「そんなんじゃない。特に変わった事は何もないんだけど。学校でやってることに興味が持てない。授業も行事も・・・それなのに後三年も、こういう気持ちで行ってるって良くないんじゃないかなと思う。学校にも悪いし。自分も楽しくないし。お金だってかかるのに、行きたくない私が、お金かけてもらって行ってるのってどうかと思う」
一気に言いたい事を言った。
言ってしまうと、不思議なほどスーッと気持ちが軽くなった。
怒られてもいい。
泣かれてもいい。
私の正直な気持ちはさっき言った通り。
変わらない。
「美月は前に一度学校へ行けなくなったことがあったから、もしかしたらこんな時が来るんじゃないかって、実はちょっと思ってた。やっぱりか・・・高校へ行かないとしたら何をするか考えているのか?」
「畑で作物を作ったり、それを売ったり、それを使って料理したり・・・日常の生活に密着した事がやりたい。それが一番、興味のある事だから。AIに仕事を決めてもらうんじゃなくて、自分で決めたい。自分が興味があって好きな事選びたい。もし間違ってても、自分で選んだなら納得できる」
「・・・考えてみれば、本来みんなの生活を支えているのは、そういう一番生活に直結する物を作ってる人達だからな。家とか、家具とか、生活の道具とか、食べ物とか・・・ずっと昔、親から聞いた事を思い出すよ。簡単にはいかないだろうが、美月のその発想は悪くないんじゃないか」
意外だった。
怒られるとしか思ってなかったのに・・・
「ありがとう。お父さん」
「実は私も、もしかしたら美月が学校行かないって言いだすのかなあって思ってたの」
「え?お母さんも」
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも私大行きたがってるし、私達二人で頑張って働いても、美月にどこまでやってあげられるか自信も無かったの。それでも高校までは何とかするつもりだったけど。だからね、もし本当に行きたくないんならそれもいいかなあって思って」
「私はその方がいいよ。行きたくないのにお金払ってもらって行くのって違うと思うし」
話が意外な方向に進み始めた。
いい意味で。
あんなに心配したのが何だったのかと思う。
言ってみて良かった。

この後はすごくいい雰囲気で、ご飯を沢山食べた。
美味しかった。
東京でも田舎はあると話して、そういう所のバイトから始めたいと話した。
シーズンごとの、収穫やキャンプ場のバイトを私は見つけていた。
若いし、体力にも自信がある。
当分はバイトで、そのうちどこか続けて働けるところを探すか、自分で何か始めればいい。
早く社会人という立場になって、自分でお金を稼いで、暮らしてみたい。

私を高校へ行かせるために用意していたお金は、最初の一人暮らしのために出してくれるし、保証人にもなると言ってくれた。
なにもかもうまくいった感じ。
これからの仕事も生活も、確かに楽ではないかもしれない。
それでも私は、自分が決めた道で、自分を生きてみたい。
これまで見てきた、田舎で逞しく生きている人達みたいに。
その人達と知り合えるという事は、私もきっとそういう暮らしに縁がある。






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