小説 色の無い街と夢の記憶⑧

小説 色のない街と夢の記憶

興味の対象が他の方に行き始めると、それと比べて学校は今まで以上に面白くない場所になった。
けれど、それに気がついた事は良かったのかなとも思う。
面白くないと思いながら学校しか知らないよりも、他の世界があることを知った。
自分の世界が一気に広がった。
帰ってからの楽しみがある分、寮に帰ってからまでは勉強したくない。
だから授業中はむしろ集中した。
学校の勉強はここだけで終わらせるという気持ちで。
その甲斐あってか授業にだけは何とかついていって、極端に成績が落ちるということはなかった。
元々そんなに良くもないけど。

寮に帰ってからは自分の時間だから、宿題がある時は早く終わらせて、ブログに取りかかる。
読んでくれている人がいる。
それが、ものすごく励みになる。
コメントが来たりすると一気にテンションが上がる。
SNSの方でも、繋がっている人と会話してみたり、田舎で撮った写真を上げてみたり、そこでの経験を語ってみる。日々、思いつくままに。
学校での毎日は変わらなくても、こっちの時間は変化に富んでいる。
毎日新しい刺激があり、気付きがある。
私と似たような事を考えている人が他にも居るとわかって、衝撃を受けた。
それも一人二人じゃないし。

これからをどうするか考えた時に、一番最初に思いついたのはおじいちゃんおばあちゃんの居る田舎に住んでそこで働くことだった。
でももし、中学を出てすぐ高校生へ行かずにこれをやると、おじいちゃんおばあちゃんと、お父さんお母さんの間の関係は悪くなるに違いない。
何でそんなことをさせたのか、許したのか、止めなかったのかという話しになってくると思う。
誰にすすめられたわけでもなく、私が勝手に思いついて自分で決めたのだけど。
それを言っても、多分それでは通らないと思う。
かといって諦める気持ちは無い。それならどうするか。
そんなことを日々考えたり発信したりしているうちに、関東にも友達ができてきた。
まだネット上のつながりだけで会ったことはないけど。
その人達から聞いた情報で、東京と言っても全部が都会なわけじゃないし、隣の県との境目近くまで行くとけっこうな田舎もあるということ。これも初めて知った。

東京に住んでいながらこんな事も知らなかったとは。私には、たまたま京都におじいちゃんおばあちゃんが居て、小さい頃行った記憶が残ってたしそこに行ったけど。
田舎は他にも沢山あるというわけだ。
東京近郊なら、親に話すにしても、おじいちゃんおばあちゃんの入れ知恵だとか思われなくて済むし、家からもそう遠くないから言いやすいかもしれない。
この冬休みはまた京都へ行くとして、いよいよ卒業は来年春。その時にどうするか。


予定通り冬休みにも家には帰らず、真っ直ぐ京都へ向かった。
学校の成績が下がったわけでもないし、学校から特に問題とされることをやらかしたわけでもないから、親は心配していないらしい。
過去に一度学校へ行けなくなった時があったから、また行っているし良かったと思ってくれてるらしい。
このままの流れで高校も無事に休まず行って大学受験を目指すか、最悪でもどこかしっかりした会社に就職ということを願っているのは分かっている。言われたこともあるし。
お兄ちゃんお姉ちゃんも当然そのコースで頑張っているし。
そのつもりは無い事を、いつ言おうかと思うけど・・・今は考えまい。


田舎へ行くと、夏とは全然違う野菜が育っていた。
白菜、大根、白ネギなど。白菜は、半分に切って漬け物にする。
大きな木製の樽に、半分に切った白菜を重ねて入れる。
白菜には塩を振って揉み込んで、昆布とタカノツメも入れる。
重石に使うのはどこかで拾ってきたらしい平べったい石。
これを樽の上にのせる。
かなり大きな重い石で、私でも相当頑張って両手で持ち上げる感じ。
おばあちゃんはこれを平気で持ち上げてどんどん並べていくからすごい。
常に体力を使っている人は違う。
そういえばお母さんがギックリ腰になったのは、五キロのお米の袋を持ち上げた時だったけど。
この石って、明らかにそれよりずっと重い。
年齢が上がるほど体力や筋力が無くなるのかというとそうでもないらしい。

白菜の漬物は、家で食べるにしてはすごく大量だなと思ったら、これも売るということだった。
一週間経って食べごろになった物を試食させてもらうと、柔らかくて甘味があって味がまろやかで、ものすごく美味しかった。
白菜の漬物ってこんなに美味しかったっけ。
白菜漬け作りの話しはブログにも書く。SNSにもあげる。
私の家族は誰も、田舎にも野菜作りにも全く興味がないから、見られる心配は無い。

ブログとSNSの他にもう一つこの冬から始めたのが、動画を撮ること。
それをこれからユーチューブにあげていく。
おじいちゃんおばあちゃんに協力してもらって、サキちゃんにも手伝ってもらった。
野菜の収穫、それを軽トラに積んで売りに行くところ、出店してからの様子、白菜漬けの作り方と試食、収穫した野菜を使っての料理、田舎の景色、家の中での暮らしの色々。
田舎への移住を希望する人は十年前くらいから特に増え続けているから、田舎の暮らしを題材にしたユーチューブ配信も多い。
せっかくここに居るのだからやらない手は無い。
私が話すのが下手くそでも、画面を流しながらなので、何ならそれを見てもらうだけでも伝わる内容。
それだから私も気が楽。うまく話そうと思わなくていいとなると、数本撮るうちに途中から意外と楽しくなってきた。
学校で人前で話すとなると嫌でたまらなくて、全身が硬直してガチガチになるのに。
好きなものに関しては、けっこう自由に楽しんで話せる自分に驚いた。

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