小説 最果ての地にて愛をつなぐ

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最果ての地にて愛をつなぐ⑩ 第6章 すぐ近くにあってとても遠い世界 続き

木製のどっしりしたテーブルの上に並んでいるのは、夏野菜の浅漬け、新鮮なトマトと胡瓜の色が美しいサラダ、玄米のピラフ、梅干しや昆布の入った白米のおにぎり、焼き魚、魚のフライ、貝の味噌汁、卵焼き、野菜炒めなど。取り皿が置いてあって、来た人から勝...
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最果ての地にて愛をつなぐ ⑨

下調べをした時に確認した通り、ここは海浜公園になっていた。例年ならもう少し賑わっているのかもしれないが、この状況なので人の姿はまばらだった。公園内にある店も閉まっている所が多い。一番暑い時間帯なのもあり、ここまで歩いてきただけでかなり汗をか...
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最果ての地にて愛をつなぐ ⑧

民宿に到着すると、梢は荷物の中身を鞄から一旦全部出して、部屋に置いてあるカゴの中に入れ直した。荷物は少ないとは言っても、泊まりの可能性を考えて2日分の着替えと洗面用具、水筒、お菓子、スマホ、筆記用具、スケジュール帳、タオル、財布、読みかけの...
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最果ての地にて愛をつなぐ ⑦

「このお店って時計が無いんですね」梢は初めて来た店なのに、なぜかここでは何でも平気で聞ける気がした。「時計?ああそういうの置いてた時も昔はあったなあ」店主は、時計という物の存在など忘れていたという感じで答えた。そういうばこの人は腕時計もして...
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最果ての地にて愛をつなぐ⑥

終点で梢が電車を降りる頃には、残っている人も少なかった。見る人全員がマスクを着用しているのは何処に行っても同じだったが、京都市内に比べると人の数が多くない分、異様な圧迫感は無い。早朝に出かけてきた時はまだ涼しかったけれど、今はかなり暑くなっ...
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最果ての地にて愛をつなぐ ⑤

5月の下旬から唯が店に出てこなくなって、約一ヶ月が過ぎた。市内の、ショッピングモールの中に入っている飲食店で働いていると聞いた。カフェの二階がここの家族の自宅になっているので、いつでも会える距離にいると言えばそうなのだけれど。梢が出勤してく...
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最果ての地にて愛をつなぐ ④

コロナ騒動が始まったのは、その冬の事だった。年末年始、テレビでその話題が出始めた。その頃はまだ、長くても二ヵ月か三ヶ月経てば収まるものと思って気にしていなかった。ところがその後に出された緊急事態宣言。騒ぎが収まるどころか、急激に加速していっ...
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小説 最果ての地にて愛をつなぐ ③

仕事を変えて数日で、梢は今度の仕事場は自分に合っていると感じた。その感覚は、数ヶ月経っても変わらなかった。このカフェは、梢の両親より少し年上の60代の夫婦の経営で、29歳になる娘もスタッフとして手伝っていた。梢が入るまでは完全な家族経営で、...
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小説 最果ての地にて愛をつなぐ ②

2019年春に、梢は地元和歌山の高校を卒業した。高校を卒業したら都会に出て働いてみたい。一人暮らしも始めたい。それはずっと前からの夢だった。家族は、両親と三歳年下の高校生の妹。家族の事も田舎での暮らしも嫌いではなかったけれど、もっと違う世界...
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小説 最果ての地にて愛をつなぐ①

ホームに滑り込んできた電車は、京都が終点で折り返し発車。一斉に人が降りていく。一番前に並んでいた梢は、空いている二人掛けの席見つけて窓側に座った。 窓に映る自分の顔を眺める。明るい髪色のショートカット。クルクルとよく動く丸い目が特徴的な、ま...