最果ての地にて愛をつなぐ ⑦

小説 最果ての地にて愛をつなぐ

「このお店って時計が無いんですね」
梢は初めて来た店なのに、なぜかここでは何でも平気で聞ける気がした。
「時計?ああそういうの置いてた時も昔はあったなあ」
店主は、時計という物の存在など忘れていたという感じで答えた。

そういうばこの人は腕時計もしていないと気がつく。
つい最近まで梢はカフェに勤めていたので、店を開ける時間、モーニングの時間、ランチの時間と区切って、出すメニューも変えないといけないので時間は常に気にしていた。
マスターもママも、常連のお客さんには少し融通をきかしたりする人だったけれど。
それでも一応時間は決まっていた。
(ここって何から何まで他と違う)

「この奥が家なんやけど、そう言うたら家にも時計ないわ」
店主は笑いながらそう言った。
「ここは開ける時間も適当やで」
カウンターに座っていたお客さんが言う。
「適当に開けて適当に閉めるんや」
「それで誰も困らへんしな」
外は歩く人もまばらで暇になっている店も多いというのに、この店は満員だ。
時間をきっちり決めないこのやり方を、好きだという人が多いからこそ流行っているのだろうと思える。

「今日はどこか泊まり?」
向かいに座っている女性が梢に聞いた。
「泊まるとこ見つけて適当に泊まるか、泊まるとこ無かったら日帰りで帰るか決めてなくて。私もてきとうですね」
店の皆んなが笑う。
「それやったら俺らのとこ民宿やで」
帰ろうとしてさっき立った若い男性が梢の方を向いて言った。
「そうなんですか。嬉しい。ここの近くですか?」
「歩いて20分ぐらいかな」
「行きたいです。一泊っていくらなんですか?」
「素泊まりで3000円、食事2回付き5000円」
泊まるとしたらこれくらいまでと予定していた額より、少し安いくらいだった。
「行きます!」
梢はすぐに決めた。
さっきの野菜といい、ここの店に集う人達の雰囲気といい、心地良さしか感じない。
この感覚は大事だと梢は思う。

食事と水分補給を終えた巨大な犬は、まだ猫と戯れている。
「ファルコン。行くで」
年配の男性の方が声をかけると、犬がゆっくり立ち上がってこっちに来た。
あまりに大きいので最初はびっくりしたけれど、人懐っこい性質の犬のようで初対面の梢にも友好的だった。
「ファルコンなんですね」
古い映画が好きな梢は、映画ネバーエンディングストーリーに出てきた生き物の名前だとすぐ分かった。
そういえば似ている。
「なんかほんまに飛びそう」

続きはこちらです

コメント

  1. 柴田 一弘 より:

    いつも楽しみに拝読しています。コロナ茶番で心がザワザワしていますが、ここへ来ると心が落ち着きます。そして自然と呼吸が落ち着いてきます。コロナ茶番の記事も秀逸で沢山勉強させていただいています。そして友人たちとも共有させていただいています。有難うございます。
    そしてこの「最果ての地にて愛をつなぐ」も愛読しています。今は思い出の中にしか存在しない時間がゆっくりと気持ちよく流れていく社会。もう一度人々との触れ合いが戻ってくることを夢見ています。何気ない日常が愛おしく思い出されます。

    陰ながら応援しております。
    これからも健筆を奮われんことを願っております。

    • ゆき satsuki より:

      いつも読んでいただき本当にありがとうございます。
      今の世の中の状況に対しておかしいと思う、共通の感覚を持つ人が
      少なからず居るのではないか・・・今そんな気がしています。
      お友達とも共有していただいているとのこと、
      ありがとうございます。
      丸い社会のイメージを自分の中で形にしてみたくて、
      ただ書きたい事を書こうと思って書き始めた小説も、
      お読みいただき本当にありがとうございます。
      ものすごく励みになります。
      すこし間が空きましたがやっと今日更新しました(^^)

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