小説 最果ての地にて愛をつなぐ ②

小説 最果ての地にて愛をつなぐ

2019年春に、梢は地元和歌山の高校を卒業した。
高校を卒業したら都会に出て働いてみたい。
一人暮らしも始めたい。
それはずっと前からの夢だった。

家族は、両親と三歳年下の高校生の妹。
家族の事も田舎での暮らしも嫌いではなかったけれど、もっと違う世界を見てみたいという気持ちが大きかった。
大学に進学するより、早く社会人になって自分でお金を稼ぐという体験をしてみたかった。
地元ではほとんど就職先が無いので、通勤時間はかかるけれど家から通える範囲でどこか就職先を探すか、街に出て一人で暮らすか二択しかない。
都会に出ようと考えた時、東京まで出るのはちょっとハードルが高い気がした。
同じ関西の中でと考えて、旅行で何度か来た事がある大好きな場所、京都を選んだ。
京都での一人暮らしを決めた時「旅行で行くのと住むのは違う」と両親に言われたけれど、そう強く反対される事もなかった。
最終的にはアパートを借りる初期費用は親が出してくれて、保証人になってくれた。

梢が借りた部屋は、全部で20部屋ほどの小さめのアパートの3階。共益費込み家賃4万円のワンルーム。
住人用のコインランドリーが下の階にあり、管理人夫婦が1階に住んでいた。
小さな流しとユニットバスが付いている四畳半の部屋は、パイプベッドと折り畳み式の机、椅子を置いたらいっぱいになった。
エアコンは付いているし、電気ポットと電子レンジを持ってきたので湯沸かしや温めくらいはできる。
自炊したい人なら不満かもしれないが、料理もあまりやったことがない梢には十分だった。

田舎にいた頃の自分の部屋より狭くても、ここは梢にとって初めての自分の城。
大通りから少し奥まったところにあるので程よく静かで、それでいてコンビニもスーパーも飲食店も近くにいくつもある。
田舎では考えられない便利さだった。
子供の頃から田舎しか知らない梢は、都会への憧れが強かった。
それでもコンクリートジャングルというのもまた苦手で、都会でありながらちょうどいい感じに古い街並みや自然の風景が残っている京都は最高だと思えた。

梢の初めての就職先は、市内の百貨店。
高卒で入れたのは幸運だったけれど、どうしても合わなくて三ヶ月で辞めてしまった。
初日から何となく居心地の悪さを感じて、ここで続くかなと不安になった。
その嫌な予感は当たってしまう。
接客は好きな方なので、仕事そのものが嫌というわけではない。
社内の細かい決まり事、厳しい上下関係、お客様の前以外では皆が不機嫌な様子、人の悪口をよく耳にすることなど、その雰囲気がどうしても無理だった。
中途半端に長く居て仕事を覚えた頃に辞めるより、早い方が迷惑もかからない。
ちょうど試用期間が終わる時、続ける気が無い事を会社に伝えて辞めた。

辞めてからすぐ次の仕事を探し始めた。
次に見つけた仕事は、京都らしい落ち着いた雰囲気のカフェでのバイト。
親には、仕事を変えてしまってからの事後報告。
電話で伝えた時、これを聞いてよく思っていないのは伝わってきた。
けれど、とりあえず無職にはなってないということで納得してくれた。
我慢ができずにすぐ辞める自分もどうかと思ったが、やっぱり無理だった。
我慢して仕事が嫌いになるよりも、辞めて好きな場所を見つけたかった。

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