【幻夏】あらすじと感想

大好き推理小説

ジャンルとしては推理小説に入ると思う。
この本を読んで、ずっと以前に見た映画をちょっと思い出した。
ミスティック.リバーという海外ものの映画。
この映画も重い内容で、誰も幸せにならない感じだったけど・・・
考えさせられるし心に残った。

この本の内容も、重いし辛い。
はっきり言って読後感は全然爽やかじゃない。
でも「読んでみて」とすすめたくなる本。

この本では、司法の信頼性、冤罪をテーマとしている。
冤罪というのは、
犯人にされてしまった本人はもちろん、
その家族など周りの人間をも巻き込んでいく。

この小説の中に出てくる聴き慣れない
「叩き割り」という言葉。
これは、被疑者を精神的に追い込んで
自白を引き出すというやり方の呼び名。

自白を取るためには、
本人にもその家族にも両方に対して
平然と嘘をつくこともある。

一度その方向で進み出すと、
途中で被疑者側の無罪を証明する証拠が上がっていても、
目撃者などの証人がいても、あえてそれを取り上げない。

これは架空の物語の中のことだけれど、
現実今でもこういうことは無くなったわけではない。
事件から長い年月が経っていて忘れられ、
ニュースとして大きく取り上げられることは少なくても。

裁いた側の人物達は、沢山の事件を扱うため
一人一人の事など月日が経てば忘れている。
例の「叩き割り」で自白を取って無理やり決着させたとしても
そこに何の感情もない。

罪を着せられた本人とその家族にだけ、消えない傷を残す。


あらすじ途中まで
結末の事件の真実まで書いてしまうとネタバレになって
これから読む人には面白くなくなるので差し支えないところまで。

23年前に終わったとされていた事件が、
今頃になってもう一度目の前に現れる。

物語の始まりは、興信所を訪れたある依頼人が
23年前に失踪した少年を探して欲しいと言ってきた事。
依頼人はこの少年の母親。

興信所の所長鑓水と知り合いの刑事相馬は、
23年前、失踪した少年尚と友達だった。
その尚の弟拓、この兄弟の母親とも関わりがあった。

そして最近起きていたもう一つの事件。
少女が連れ去られるというこの事件と、
23年前の事件は関係があるのか。

死んだとされている尚と拓の父親についての謎。

事件現場に刻まれた同じ形の記号。

年月は開き過ぎているし
一見何の関係もないように見えるいくつかの事件が、
物語の中で重なり合っていく。

あまりにも残酷な展開で、
目を逸らしたくなるような場面も多い。
(グロテスクな描写とかそういうものではないので
それが苦手という人はご心配なく)
何と言うのか、精神的に重くのしかかってくる感じの残酷さ。

こんな酷い展開、こんな真実ってありなのか・・・
全てのきっかけとなったのは、冤罪。
その事をずっと知らなくて、何年もの年月、
真実ではないことを真実だと信じて生きてきた被疑者の家族。

失われた時間は戻って来ない。

一度犯人にされてしまったら何を言っても無駄。
「あいつら」は何でも出来るんだ。
これが、冤罪で苦しめられた人の残した悲痛な言葉だった。

幻夏 (角川文庫)

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