小説 妖獣ねこまた 17

小説 妖獣ねこまた

動物と会話が出来る女の子のおかげで、険悪な雰囲気からは脱することが出来た。
スパイでもないし怪しい人間では無いと、やっと分かってもらえたらしい。 
彼らは、すぐ近くにある自分達の家に和人と茜を招いた。

最初に見たメンバーで全員かと思ったらそうではなく、もう一組年配の夫婦が家に居た。その人達は若夫婦の奥さんの方の親で、最初に出てきたのは夫の方の親だった。
ここに住んでいるのは若夫婦と、それぞれの両親、若夫婦の四人の子供で、十人の大家族だった。和人達の前に最初に現れた少年が長男で十四歳、動物と話して和人達を助けてくれた女の子は十一歳で長女だった。その下に八歳の妹と六歳の弟が居る。
子供が沢山居ても、両方の親も居るから子育ての苦労はそれほど無いと、子供達の母親は笑って言った。

近隣の村で少しずつ開発が進み始め、その頃から移住を計画していて、家族全員で実行に踏み切ったのが数年前。その頃、末の男の子はまだ赤ちゃんだったと言う。色んな場所を見てまわり、使われていない土地や古民家を探したという事だった。
和人達とは少し違って、開発を阻止しようとは思わず、最初から移住の方向で考えていたと話した。
「俺達は最初、開発をやめさせられないかって考えたんですけどね。結局無理だったし、移住の方が賢いですよね」 
今思うと苦笑いだなと和人は思った。
「もっと多人数で山へ移住して、見つかって潰されたグループもありましたからねぇ。今でも安心ってわけじゃないんですよ」
菓子を持ってきてくれた女性が言った。
聞くところによると、開発を進めたい側は、今住んでいる人間が退いてくれればいいというだけでなく、勝手にどこかに移住して好きに暮らす事がどうも気に入らないらしい。
完全に管理された新しい街を作り、全てそこのやり方に従う人達を住まわせ、そうでない人間が存在する事は良しとしない。
和人も茜も、刺客が送られてくる体験をしていたので、どういう事なのかよくわかった。

古民家に暮らす大家族

彼らの家は、築百年以上の古い建物を自分達で直した物だった。
玄関を入るとすぐ土間があって、漬け物の樽らしい物がいくつも並んでいる。
料理は全てここでやって、食べる場所は一段高くなっている畳の間ということだった。
ここには、昭和の時代を思わせるような木製の食器棚や扇風機、ちゃぶ台が置いてある。
テレビや炊飯器、電子レンジ、掃除機といった電化製品は見当たらず、昔ながらの生活を送っているらしい事が見てとれた。
冬には、薪ストーブや火鉢を使うと言う。
暑い季節の今も、エアコンは無く扇風機だけで、それでも都会の夏と比べると全然違う涼しさだった。車も通らないし周りに家も無いため、室外機からの熱風が来ることもなく快適らしい。

「素敵な場所ですね」
茜は心からそう言った。
正直な気持ちは伝わるらしい。家族全員が笑顔になった。
「若い人にもそう言ってもらえると嬉しいねぇ」
お茶を出してくれた年配の女性は、本当に嬉しそうだ。
「俺も村に居た時は、代々ずっと同じ家に住んでたので。なんか感じが似てて、すごく落ち着きます」
和人も、ここに来て感じたことをそのまま言った。

「最初はほんとにボロボロだったけどな」
子供達の中で一番年上の少年は、そう言って笑う。
少しずつ直して、やっと住めるようになったらしい。
それでもあちこち壊れるから、今も直してばかりだと言う。
でも、それが辛いというわけでなく、家族全員がここでの暮らしを楽しんでいる様子に見えた。

和人と茜が話す事を、この家族はちゃんと向き合って聞いてくれた。
そして、自分達の事も話してくれた。 
和人が動物達の話をすると、皆楽しそうに聴いてくれた。
ここにも沢山の動物達が居て、同じように自由にのんびりと暮らしているらしい。
猫又のリキの事を話すと、子供達はさらに興味津々の様子だった。

リキは気配を消していたところからエネルギーの状態を変えて、みんなの前に姿を現した。
二股に分かれてユラユラと揺れる尻尾。淡く光る体。
子供達は目を輝かせてリキを見た。

居住区近くに入ってきた二人に対して、最初は木刀を持って来たりしたけれど、この家族は元々戦いが好きな人達というわけではなかった。最初はただ警戒していただけだったらしい。
自分も、二度も消されそうになったぐらいだから、和人にはその気持ちも分かった。

「俺達が一番山奥に住んでると思ってたけど、もっと奥に人が居たんだな」
長男の少年が、感心したようにそう言う。
「俺は逆に、もっと街に近くても、開発が進んだ地域と関わらず生きてる人が居るのが凄いって思ったよ」 
和人が答えて言った。
「ここよりももっと街に近い所でも、似たような暮らししてる人達は居るよ。しかもずっと人数が多い。俺達は家族だけで暮らしてるけど、そこは多分百人くらい居る。俺達もたまにそこに行って要る物を手に入れたりしてるし」
「そうなんだ。そういうの聞くとなんか元気出てくるね」
隣で聞いていた茜が言った。

「村を去る時はけっこう切羽詰まった気持ちで、何とか見つからないように山に逃げて自分達だけで暮らそうと思ってたけど。他にも人が沢山居ると思うと心強いよ」
「そこ以外にもいくつか集落を知ってるし、俺達が知らない所でもっと他にもあるかもしれない。開発が始まった頃、同じことを考える奴はけっこう沢山居たってことだよな」
少年は、和人達より色々知っているようだった。
「全体で見れば開発を喜ぶ人の方が多いのかもしれないけど、そういう暮らしが苦手な人だって一定数いるよね」
「新しい街は完全管理されてて安全って思う人にはいいんだろうけど、俺は絶対無理。一度ああいう街での生活に組み込まれたら、後から逃げるのって多分めちゃくちゃ大変だから。最初から逃げる方が楽だと思う」
まだ十代前半ながら、長男だがらしっかりしているのか少年は色々考えているらしかった。

和人達が、今度は自分達の家に招待したいと話すと、子供達が真っ先に「行きたい!」と言った。四人とも行きたいと言って譲らないので、誰かを置いていくわけにもいかない。
ここに人が居なくなるのは防犯上よろしくないということで、大人達は全員留守番ということになった。ここの家族みんなが自分達を信頼してくれて、子供達だけで行かせてもいいと言ってくれた事が、和人も茜も嬉しかった。・

リキは、普通の猫のサイズからあっという間に大きくなった。
馬よりも大きいかと思えるサイズになっている。
四人の子供達が歓声を上げた。
「乗せてもらっていい?」
子供達は、口々にリキに頼んだ。
「いいよ。小さい子から順番に」
大人達が手伝って、末っ子が一番前で、案内の黒猫を抱いて乗った。
その後ろに子供達三人、茜、和人が一番後ろに乗ると、リキはゆっくり走り始めた。

「なんか来た時より体長くなってない?」
茜が、走っているリキに聞いた。
「長くも短くもなるよ妖怪だから。形は好きに変えられる」
「すごいね!!」
子供達は大喜びだ。リキは、少しずつスピードを上げていった。
「飛ばすから、しっかり掴まってろよ」

獣道に入り、木々の間を縫うように、リキは疾走した。
自然に皆んな頭を低くして、リキの体に自分の体を添わすように、うまくしがみついている。
子供達にはたまらなく楽しい体験のようで、スピードが上がっても怖がる子は居ない。
四人とも、ずっと笑顔だった。
和人も茜も、風を切る気持ち良さを感じながら、今日出かけてきて本当に良かったと感じていた。

※※※※

9月3日

昨日は、かわいいお客さん達が四人、ここに遊びに来ていた。
ちょうど善次さんとキクさんが、今ある材料を使って和菓子を作ってくれていたところだった。
ヨモギの入った生地を使った、粒あん入りのお餅。
甘い物は大好きという子供達は大喜びだった。
一番年上の男の子は、良太君や琴音ちゃんと年が近いから気が合ったらしい。
草餅を食べた後は、さっそく子供達だけで川へ遊びに行っていた。
楽しそうなところには、犬達も猫達もゾロゾロついて行く。
ここの川は流れもそんなに速くないし、深さも無いから危険は少ない。
それでも一応は誰か見ていた方がいいということで、タネ婆さんとリキが行ってくれた。
もし何かあってもリキが居たら安心だから。
なんかすごく頼ってしまってるなあと最近思うけど。
あの家族と出会えたのも、乗せていってくれたリキのおかげだし、猫又のパワーにいつも助けられている。

あの家族が住んでいる場所は、ここからまともに歩いたら数時間はかかると思う。
猫達の行動範囲の広さにも驚く。
犬達もけっこう遠くまで行っているようだし、どうも彼らの方が人間の俺達より行動的なのかもしれない。
動物達同士の間でも、他所との交流はあるらしい。
今まで居た村に住めなくなれば、どこに行けば安全かという情報を交換して、移動したりするし。犬や猫達だけでなく、それは他の動物達も同じらしい。

俺達は今まで、同じ村出身の仲間以外との交流がほとんどなかった。
村に居る時からそういえば、他所との交流はほとんど無かったかも。
だから、ある日突然消えたようにどこかへ行っても詮索されにくくて、そういう意味ではそれがよかったのかもしれないけど。

昨日家に招かれた時聞いたところによると、あの家族は二年位前から移住を決めて、周りの誰にも言わずに計画を進めてきたという事だった。
開発に大賛成の人も居ると思うし・・・というかそっちの方が多いと思うし。
知られて足を引っ張られるのは避けたいという気持ちは分かる。
俺はその点運が良かったのかもしれない。
家族でなくても信頼できる人が、これだけの人数居たわけだから。

あの家族も、パソコンやスマホの類は村を出る前に一旦全て解約し、今は家族で一台だけ新しいのを持ったけれど出来るだけ使わないようにしているという事だった。
今の世の中では、個人情報なんてどこから漏れるか分かったものではない。
電話番号やメルアドなど、どこにも公表していないのに、教えた覚えのない所からセールスの電話やメールがジャンジャン来るところを見ると本当に危ない。

完全監視管理体制が敷かれた地域から逃げようと思えば、アナログな通信手段しか使わないのが一番間違い無いのかな。
テレパシーの会話が出来るようになってからは、そういう物すらあまり要らないとも思うけど。
パソコンやスマホを触らなくなってから更に、感覚も鋭くなったように思う。
素晴らしい自然環境の中にいるし、高周波電磁波に晒されていないのがいいのかもしれない。

同じような感じで山で暮らしているグループとか、一人で山に入って暮らしている人とか、あの家族が知っているだけでもけっこう居るらしい。
「自分達も全て知ってるわけじゃないし、ほんの一部と思う」とも言っていた。
今まで誰にも見られずに、密かに山で暮らしてる人なんかも居そうだし。俺達が山に移住したのは最近だから、もっと前から居て山暮らしに年季入ってる人は沢山居るかも。

子供達は、夜遅くなる前には帰したけど「また来たい」と言っていた。
ここが気に入ってくれたみたいで、ここの皆も喜んでたし俺も嬉しかった。
俺達に対しても「またいつでも来て」と言ってくれた。

ここより街に近い場所でも暮らしている人達も居て、人数も多いらしい。
そこへ行く時もまた、案内してあげるから一緒に行こうと言ってくれた。
関西圏になるらしいんだけど。どんなところなのか、今からすごく楽しみだ。

百人で暮らす村

9月8日

昨日、百人ぐらいが暮らしている村に行ってきた。
最近交流を始めた大家族の子供達が、約束通り案内してくれた。
行ったのは、俺と茜さん、喜助さんと寿江さん、良太君と琴音ちゃんで六人。
途中までリキが乗せてくれて、人目につきそうな場所からは歩いた。
それほど遠いとは感じなかった。
途中から普通の猫サイズになったリキは、トコトコと前を歩いて好奇心いっぱいの様子だった。

村に着いてからは二人ずつの別行動で、後で自分の行った所を教え合おうということになった。
あの場所には、本当にいろんな店があった。
山深い場所なのに、けっこう人が居る事に驚いた。
道端で村人同士が親しく会話していたり挨拶を交わしているのを見ると、顔見知りばかりなのかなと思う。

着いたのが昼前くらいだったから飲食店を探して歩いていると、珈琲とランチを出しているカフェがあった。
俺と茜さんは、まずそこへ行った。
「動物OK」の表記もあったので、普通の猫サイズになったリキも一緒に入る。
丸々と太った猫が店の入り口で体を伸ばして寝ているので、ここの子かなと思ったら通い猫とのこと。
猫が居るのが入り口のど真ん中なので、どうやって入ろうかと思ってると「通っていいよ」と猫から伝わってきた。なので、猫の体をまたいで入った。

入り口にも店の中にも、観葉植物や季節の花の鉢植えが沢山あって、どっしりした木製のテーブルや椅子があって、手書きのメニューがある。
とてもあたたかい雰囲気の店で、年配の女性店主は、この店の雰囲気にぴったりの人だった。
俺達が入ったのと入れ違いに、多分モーニングのメニューを食べ終わった人達が出ていくところだったけど、驚いた事にお金ではなく野菜で支払っていた。
聞いてみると、お金でもいけるけど物でもいいらしい。
久しぶりに、いつもと違う食べ物を食べた感じ。すごく新鮮で美味しかった。

陶芸をやっていて作品を売っている店があったり、服を売っている店、野菜や果物の店、民宿もあった。
全部が個人店で、個性的な店構え、内装、こだわりの品を見て回るのは本当に楽しかった。
食器や文房具など、持って帰って使えそうな気に入った物をいくつか買った。
子供達に勉強を教えているらしい教室のようなのもあった。
時代劇で見た江戸時代の寺子屋みたいな感じ。
飲食物持ち込みで外で授業をやってたりして、すごくオープンで、普通の学校とは全然違う感じだった。
俺が以前居た村も、開発の話が来るまでは平和だったけど、ここはそれよりももっと自由な感じがする。
民宿もあるようだし、今度は泊まりで来てみたいと思う。
民宿の前を通ると、遅めの昼食時らしく、多分スタッフと思われる人達が外で食事中だった。
いかつくて逞しい感じの老人(この人がオーナーかな)、あとは若い男女が数人。巨大な白い犬。
食べ物を求めて狸の家族がゾロゾロとやって来ていた。

良太君と琴音ちゃんは、ここの子供達と仲良くなって、洞窟を利用して作った「秘密基地」なるものを見せてもらったらしい。
喜助さんと寿江さんは夕方早めの時間から飲んでいたようで、血色が良くなって上機嫌だった。
年配の夫婦が経営する、昔ながらのスナックのような店があるらしい。
俺も今度行きたいなと思う。




和人は朝の珈琲を飲みながら、書いていた日記帳を閉じた。

リキが近くに来ていた。

「昨日はありがとう。リキ」
「あそこも楽しい村だったな」
「面白い店がいっぱいあったし、また行きたいな。あんなに沢山人が居るなんて驚いたよ。見つからずによく頑張ってるよな」

茜とタネ婆さんが外で話しているのが見えたので、和人とリキは外へ出た。

「上から見てるようだね」
タネ婆さんが、空を見上げて言う。
和人も空を見てみると、ヘリコプターが飛んでいるのが見えた。

そういえば最近、ヘリコプターを見かけることが多くなったとは感じていた。
「ムジナ達が頑張ってくれてるし、普通に山道からここに入るのはほとんど不可能なはずなんだけど・・・上からだと見つかる可能性が無いとは言えないな」
リキがそう言った。
「まだ見つけようとしてるとしたら、ほんとしつこいよね」
茜が、うんざりしたように言う。
「今のところ俺達は、パッと見て家らしい物はほとんど作ってないから。上から見られたところで多分大丈夫だと思うよ。たしかに絶対とは言えないけど」
和人は、そうあってほしいという願いを込めて言った。
「ここよりもむしろ、昨日行った村の方が危ないんじゃない?上から見られてるとすると、あそこまでいくとどうしても目立つし・・・大丈夫だといいんだけど」
茜が、昨日行った場所を思い出しながら言った。
村の規模が大きいほど、人数が多いほど目立ちやすい。
「どっちに転ぶかだね。少ない方が目立たないが、少ない人数なら排除しやすいとも思われる。人数が多いと見つかりやすくはあるが、排除するとなると大量虐殺だからね。明るみに出たらまずいだろうよ」
タネ婆さんが言って、和人も茜もなるほどと納得した。
「たしかにそういう意味で言えば、あの村には簡単に手出しは出来ないよな。それに、あの村以外にも同じような所が沢山あるとしたら・・・潰されずに乗り切れるかもしれないな」
リキがそう言って、皆表情が穏やかになってきた。

急に強い風が吹いて、辺りが暗くなった。
さっきまで晴れてたのに、にわか雨でも来るのかなと和人は思った。

「しばらくぶりに来たんだねぇ。山の主か」
「そうみたいだな」
タネ婆さんとリキは、何が起きたのかすぐに分かっていた。

巨大な黒い鳥が、大きく翼を広げてこっちへ向かってきていた。

山の主が見せてくれたもの

恐ろしく巨大な黒い鳥、山の主が、三人の前に降り立った。
三体の山の主の中の一体、黒い怪鳥だ。
この山には他にあと二体、沼に住む巨大魚と、巨大な白狼が居る。

怪鳥が近づいて来ただけで風圧が凄くて、小柄な茜は吹き飛ばされそうになり、和人の腕につかまった。
見上げると、山の主の漆黒の体の中で二つの目だけが、血のように赤く光っている。
その下には大きく鋭い嘴。
さらに下の方を見ると、太い木の幹の様に頑丈な二本の足。
そこには鋭い爪が生えている。

三人は山の主と初対面ではないので今更驚きはしないが、この姿は何度見てもけっこう怖い。
けれど三人に対して敵意は無いというのが、山の主から伝わってきた。

「それなりに頑張っているようだな」
黒い怪鳥は、三人に向かって言った。
この山に棲む三体の山の主は、普段からずっと、ここで暮らす人々の様子を見ている。

人々や動物達とテレパシーで話すこともあり、特にリキとタネ婆さんは、山の主達とよく話していた。
「村を守るのは無理だったけどね」
タネ婆さんが言った。
「奴らが山に来なければそれでいい」
山の主達としては、この場所が荒らされなければいいらしい。
それで約束は守られているという認識だった。
「ムジナ達が入り口で頑張ってくれてるしね」
和人が言った。
入ろうとする者を化かして迷わせるムジナ達のおかげで、山道から奥へ入れた者は居なかった。 「今度は空から見つけて入って来ようって魂胆かもしれないけどね。最近のヘリコプターの多さは異常だよ」
タネ婆さんは、少し前からこの事を気にしていた。
「奴らが上から見てようが、放っておいても案外大丈夫かもしれないぞ」
山の主が、あっさりとそう言ったので三人には意外だった。
上空をうろついているヘリコプターの存在は、山の主にとっても鬱陶しい物に違いないと思っていたから。
和人も茜もタネ婆さんも、どうリアクションしていいのか分からないといった様子で顔を見合わせた。
リキでも分からないらしい。
山の主は、何を根拠に大丈夫と言うのか。

「面白いものを見せてやろう」
山の主はそう言った。

「背中に乗っていいんだって。まずこっちに乗ってくれたら、一緒に上がれるよ」
リキは、言いながら体を大きくして、馬ぐらいの大きさになった。
すぐに山の主の意図が分かったらしい。
「乗っていいって、山の主が?」
和人が聞いた。
「そうだよ」
三人がリキの背中に乗ると、リキは山の主の翼の上に飛び乗った。
そのまま背中まで一気に駆け上がる。

上がった後、リキはスーッと元の大きさに戻り、三人は山の主の背中の上に降りた。
リキが一番前に乗り、三人は横に並んで乗った。
全員乗ったのを確認した山の主は、再び大きく翼を広げ、空へと舞い上がった。

和人が下を見ると、あっという間に山が遠ざかっていく。
山の主の体が大きい事と、静かに飛んでくれていてほとんど揺れない事で、怖いという感覚は全く無かった。
茜もタネ婆さんも、遥か下の方に見える山々を見下ろしている。
「こうして見ると、上から見てそんなに目立たないねぇ」
「これだったらなんか大丈夫そう。見つかって目をつけられるとか、こっちに来られるとか無いんじゃない?」
二人が話すのを聞いて、和人もその通りだなと思った。
できる限り自然を壊さずに、洞窟などを利用して住居を作っているし、普通の家のような建物らしき物も無い。
上から見てこれだったら、ヘリコプターで監視されていても大丈夫な気がした。
山の主が、ヘリコプターが来ても放っておいて大丈夫と言ったのはこの事だったのかと思った。

和人がそう思った時、山の主から返事が伝わってきた。
「本番はこれからだ。山の近くを飛ぶから、他の場所も見ると面白いものが見られる」

さらにもう少し高度が上がって、地上が遠くなった。
それでもあまり揺れないし、今日は天気がいい事もあって、上空を飛んでいる時の気分は最高だった。
山の主は、三人と一匹を乗せたまま、連なる山々の上空をゆっくりと進んでいった。

「あの辺りってもしかして・・・」
「そうよね。この前私たちが行った村じゃない?」
和人と茜が見つけたのは、自分達が行って見てきた村だった。
上空から見ると、色とりどりの屋根が見えて、広場のような場所も見えた。
この場所は、個人経営の小規模な店、自宅兼店舗の人が多い。
ここに行った時にたしか、そう聞いた事を二人は思い出した。
画一化されていない個性豊かな外観の建物が目立っている。
屋根の色だけでも色とりどりで個性的なので、上から見ても目を楽しませてくれる。
「だけどめちゃくちゃ目立ってるよね。大丈夫なのかな」
茜が言った。
あれではヘリコプターから見ても丸見えで、すぐに目をつけられそうだと和人も思った。

そう思っているうちに百人の村の上を通り過ぎ、もう少し進むとすぐにまた違う村らしきものが見えた。
懐かしい茅葺き屋根の家も見える。
さっき見た村のような色とりどりの派手さは無くて、昔ながらの形の家が多いらしい。
瓦屋根の家も多く、高い建物は一切無い。高くても二階までの感じだった。
庭があって季節の花が植えられていたり、野菜の畑も果物の木もある。
広場のような場所もあって人が集まっているのも見えた。
そこを見ただけでもけっこうな人数が居る感じで、自分達が今住んでいる場所よりもずっと規模が大きい村に見える。
家の数も、数十軒はあるようだ。

「私達が知らなかっただけで、けっこう山の中に人が住んでるんだ」
茜が、感心したように言った。
「そうみたいだな。百人近い規模の村だって、山の中にいくつもあるのかも」
和人がそう言ったそばから、次の集落が見えた。

ここもさっきの村と同じくらい、数十軒の家が、近い範囲の中でポツポツと離れて立っている。
畑や田んぼも見え、果物の木も植えられていた。
農作業をしている人の姿も見える。
広場では、子供達が遊んでいて、犬や猫、牛、ヤギ、鶏などの動物もたくさん居るのが見えた。

そこを通り過ぎ、さらに先へ。
どこまで行っても、山深い場所に沢山の集落が存在していた。
大きいもので、おそらく百人くらいの規模。
その半分くらいの規模のところも、けっこう見られた。
その他にも、テントや小屋、車が一つだけポツンとあって、その前で火を焚いて料理をしているらしき人の姿が見えるという事もあった。
テントの近くで、犬が二匹遊んでいるのも見える。
一人だけで暮らす人、動物と暮らす人も居るらしい。
最近会った大家族のように、数人の家族だけで暮らす人達も居る。

「近い範囲は俺も見に行ったけど、ここまでは知らなかった。思った以上に人が居るんだな」
一つ一つを見届けたリキがそういった。
「どこにでも村はあるもんだねぇ。これだけあるってことは、全部ぶっ潰すわけにはいかないだろうよ」
タネ婆さんが言う。
「面白いものがあるってこの事だったんだな。ありがとう。見せてくれて」
和人も他の皆も、山の主に感謝を伝えた。

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