小説 妖獣ねこまた 16

小説 妖獣ねこまた

脱出

和人を背中に乗せて、リキは暗闇の中を走った。
誰かが追いかけてくるような様子は無かった。
「追いかけては来ないみたいだな。さっきの爆発で、俺はもう死んだと思われているのかも」
「そうかもしれないな。明日になったら確かめに来るだろうけど」

住み慣れた村から遠ざかるにつれ、和人の中でもだんだん未練が無くなってきた。
あの場所で過ごした日々が楽しく幸せなものだったことには変わりないし、先祖が守ってきた家を守り切れなかった事に対して申し訳ない気持ちは残るけれど。
十数人で戦ってどうにかなるレベルの問題では無さそうだと分かってしまうと、離れるしかないと気持ちが固まった。

獣道に入り、門番が居る場所まで辿り着く。
そういえば、こんな時間に来るのは初めてだなと和人は思った。
門番の体には尻尾が付いていて、その細い尻尾は木の枝のように先が分かれている。枝のあちこちに光の粒のような物が付いていて明るく光っている。
周りが暗いとこの光がよく目立って、何とも言えないくらい美しく幻想的に見える。
それに、その明かりのおかげで辺りがよく見える。
夜になるとこうなるのか、門番の体全体も淡い金色に光っている。尻尾の先に付いた光の粒と同じ色の大きな目玉も、夜になると一層よく目立つ。
和人は最初、この時間でも門番は普通に起きてるのかと感心したけれど、そういえば妖怪だから、人間みたいに睡眠は要らないんだと納得した。
「開けてほしんだけど」
リキがそう伝えると門番はいつもの調子で答えた。
「いいけど」
木の幹に部分スッとが割れて、緑色のカーテンが現れる。

所々明かりが灯っている螺旋階段を降りながら、和人はこれからのことを考えた。

登りになってからは、リキが再び和人を背中に乗せて走った。

到着した時はまだ夜明け前だったけれど、近付いた気配で分かったのか皆んなが続々と起きて、リキと和人を出迎えた。
「予定外に早く来るってことは何かあったんだろうけど。無事で何よりだよ」
タネ婆さんが言った。
「リキのおかげだよ。リキが来てくれなかったら今頃俺は存在してなかったかも」
「そんなふうに警戒しないといけない状況も、これからはもう無いといいけどねぇ」
「今のところ、こっちへは誰も来ないからな。このまま続いてくれればいいけど。獣道の入り口あたりでもムジナ達が頑張ってくれてるし」

和人が辺りを見回すと、以前見た時には無かった家らしき物が少し増えていた。
「今日はもう休んだらどうだい?ほとんど寝てないんだろ」
タネ婆さんが言う。
「そういえば・・・」
和人は、さっきまでの緊張感が抜けると一気に眠くなってきた気がした。



翌日から、十八人と三十六匹の生活が始まった。
和人は、茜と一緒に住める住居を作った。
皆もそれぞれ、一人暮らしだったり二人だったり、動物が一緒だったり、それぞれの住居を近くに作っていた。
どの住居も、元々あった洞窟をうまく利用した物だったり、この山にある物を拾い集めてきて作った物だった。自然を壊すような人工的な物は、ここには何も無い。

川から水を引いてこようという試みも、少しずつ進んでいる。場所は少し離れるけれど、湧水が出ている場所もある。
よもぎなど、傷薬としても使える植物は多めに集めてきて、紐で束ねて干してあり、根菜類を保存するための穴も掘ってあった。
トイレとして使用するのにいくつか深めの穴を掘って、焚き木や枯れ草を燃やして出来た灰を底に敷いてみた。ここに毎日灰を混ぜて、堆肥として使おうという試みだった。
和人の車が荷物もろとも燃えてしまってドラム缶を持ってこれなかったから、ドラム缶風呂は出来なくなったけれど、何か違う物で工夫できないかと案を出し合った。
これならと思える案はまだ出なかったけれど、当分はまだ暑いから、川で水浴びをすれば済む。寒くなるまでに考えればいいかということになった。

食事時には、野草を取ってきて油で炒めたり、持ってきた米と一緒に炊いてお粥を作った。
芋は茹でて、塩をつけて食べる。
料理が好きな誰かが適当に何か作り、食べたい人は寄ってきて食べる。
この人数の人間が居ても、一斉に同じ時間に起きようとか、作業を開始しよう食事にしようという事は誰も言わない。
この自由な感じは、和人の家を避難所として皆が暮らしていた頃から少しも変わっていなかった。早く生活を何とかしなければといった緊迫感や悲壮感は微塵にもなく「今日やれるとこまでぼちぼちやっておこう」といった感じでのんびりしている。
犬達も猫達も皆呑気で、ゴロゴロ寝そべっていたり自由に出掛けては帰ってくる。
危険が無いかどうかはリキが定期的に見回ってもくれているので、安心して暮らしていた。

山の主達とも、リキやタネ婆さんは時々話していた。
今のところ山に侵入してくる者は居ないし、山で開発が行われそうな様子はなく、ここでの皆の暮らしも自然を壊しては居ない。
そんな様子だから、山の主達は満足して見守ってくれているらしい。

インターネットの無い暮らし

「そういえば・・・これもう切れてるな。充電してないんだから当然だけど、忘れてた」
数人が集まって昼食をとっている時、和人が自分のスマホを見せて言った。
「私も。忘れてた事に自分でもびっくり」
和人の隣に座っていた茜が言った。
「前はスマホ無いと一日も生きていけないとか思ってたのにな。ここに居ると全然要らないし」
良太もそう言って笑う。
「私はもう長いこと使ってないから無いのが当たり前だったけど。そういえばそんなの持ってたことも前はあったんだよね」
琴音が遠い昔のことのように言うので、さらに笑いが起きた。
和人も、村に居た頃は毎日パソコンとスマホを充電して、それが無いと生きていけないと信じていた。
田舎に暮らしながら、そういう物にどっぷりと依存していたことに今更ながら気がついた。
けれどここに来て、家を作ったり野草を取ったり、生活するためのことを色々とやっているうちにスマホの存在など忘れていた。
パソコンは車に積んでいたので、あの爆破で木っ端微塵になったに違いない。
「考えたら、こんな山にパソコンとかスマホとか持ってきてもしょうがないんだよな。なんか習慣で持ってこようとしてたけど」
「私もそれだったから人のこと言えない」
「俺も」
「使用料は口座が生きてる限り毎月自動的に落ちていくだろうけど・・・なんかもうどうでもいいって気がするな」
「山に入って帰ってこないんだし、俺達そのうち死んだ事になって、戸籍なんかも消えるんじゃないかな」
「だといいよね。追いかけて来られる心配無いし」
「言えてる。さっさと消しといて欲しいね」

スマホの話から始まって、戸籍や運転免許証、身分証明書なんかの話しになり、ひとしきり盛り上がった。
「なんかそういうのが無いと生きていけないってずっと思ってたけど、全然そんな事ないよね」
茜がしみじみとそう言って、皆んな頷いて聞いている。
和人もその通りだなと思った。

「人間って色々とめんどくさいねぇ」
集まってきた猫達が、そんな事を言った。ここでも動物達と人間の間で交わされるのはテレパシーの会話で、活発な会話がいつも展開される。
「そんな道具が無いと暮らせないなんて」
「持ちたくないねぇ。そんな面倒な物は」
「住所が変わるたびにいちいち届けないといけないとか」
「ありえないねぇ」

たしかにそうだよなあと和人は思った。
野生の動物達はとても自由だ。
戸籍とか無いし、特定の住所も無いし、会社とか親戚縁者、地域の中での立場などしがらみも無い。
銀行口座にどれだけお金が残っていたか、今月の生活費がいけるかなど常に心配することも無い。持っている財産を失う事に怯えなくていい。
それで何も困る事なく、ちゃんと生きている。
ここに移ってきた時、以前ほど豊富に食料があるわけではないから、犬や猫達は大丈夫かなと思ったけど。彼らは狩もするし、食べられる物を見つけて好きに食べている。水が飲める場所もいつのまにか知っている。困らずに生きていける能力が、ちゃんと備わっているらしい。
本来人間も、同じようにそういう能力が備わっているはずだし、自由なはずなのに。戸籍があり、住所があり、会社でもプライベートでも立場がある。
それによって自分の中の「こうしなければいけない」「こうあるべきだ」が、どんどん増えていく。
そうすることが文化的生活で、他の生き物より人間が優れているというふうに子供の頃から教えられてきた。でも今は、それは全部嘘だったと分かる。
考えたらものすごく不便な暮らしをしていたものだと、和人は改めて思った。

※※※※

9月2日

ここに来て数日が過ぎた。
なんか、曜日とか日付とか気にしなくなって、気がついたら何日か経ってるなあという感じ。
時計ももちろん見なくなった。
一日の流れは、日が昇ったから朝、お腹が空いてきたら昼近く、暗くなってきたら夕方とか、ざっくりそんな感じ。
時計を見て、何時だから何々しなければとは全く思わなくなった。
その日、朝思いついてやりたい事をやる。
動きたくない時は平気でダラダラしている。
それで誰かから何か言われるなんて事もなく、自由を満喫している。
これは俺だけでなく多分ここに居る全員。
村にいる時は、会社にも勤めてないしそれなりに自由だと思ってたけど。
今振り返るとそれでもけっこう「朝だから」「何時だから」とか、頭で考えて「今日はこれをやっておかなければ」というのはあった。
ここに来て以降、今体験しているのは、そういう事すら何もない暮らし。
ほとんど感覚で生きてる感じ。
こういう暮らしがこんなに心地いいとは知らなかった。
電気とかガスとか無いし、充電器ももちろん無いからスマホが使えなくなってそのままだけど「そういえば無くても困ってないね」と皆で話したこともあった。
死んだと思われてるなら、存在が分かるようなものは何にしろ、無い方がいいに決まっている。
全員死んだと思ってもらえたら、作戦成功ということだ。



和人が日記を書き終えた時、村の様子を見に行っていたリキが戻ってきた。
「思った通りだ。村全体が囲われて、工事中になってた」
「邪魔者が居なくなったから早速作業に取り掛かったってとこか」
「隣の村もかなり開発が進んできてるし、前には無かった送電線がさらに増えてる」
「あの辺りの村を全部繋げて、隣の県にもまたがった最新の街を作るって計画か。前に説明会で聞いたやつだな」
「配達なんかもドローンを使ってるみたいだし、街の中も、全部の家も、安全に見守るために最新のAIを使った警備システムを導入するとかたしかそんな話だったな。本音は見守るんじゃなくて監視したいだけだろうけど」
「言えてる。それをやるのに街全体に、ものすごい高周波の電磁波が発生すると思うし。とても住める気がしないな」
「生き物が住んでいい場所じゃないと俺も思う。だから猫達も皆んな逃げてきてるわけだし。感覚的にヤバいって分かるからだと思う。隣の村ではもうすでに動物も鳥も虫もほとんど居ないからな」

話していると、向こうから寿江が歩いてきた。
「車持ってこれたよ!遠かったけどね。あ〜疲れた」
寿江は、和人とリキの間に腰をおろし、とても嬉しそうに報告した。
「ほんとに?良かった!」
和人も気になっていた事だったので嬉しかった。
自分の車は無くなったけれど、喜助の車が獣道の入り口に放置したままなのは覚えていて、何とか持ってこれないかとずっと思っていた。
家を作る資材を見つけて運ぶ時も、車があればものすごく助かる。

「私らの存在が忘れられた頃には買い物にも行けるかな。ガソリンスタンドに行くのが先かもだけど。幸い今のところほぼ減ってないし」
「行けるのは来年くらいかな。俺達は皆んな顔を覚えられてるかもしれないから、当分は村の周辺をウロウロしない方がいいと思うし』
「それでも何とかなるでしょ。住居はほぼ出来たし食べ物は何かしらあるし。遠くまで行くためだけじゃなくて、車は倉庫とか部屋としても使えるからね」
「なるほど。その発想はなかったけど、たしかに使えるかも」

「野草天ぷら出来たよ」
タネ婆さんが、周りに居た皆に声をかけた。
見れば太陽が真上に上がっている。
一番暑い昼の時間帯になっていた。
ここでは誰でも、何か作りたいと思ったら勝手に作り、大抵多めに作るので、食べたい人は来て勝手に食べる。
大体一日にに二回か三回は誰かが何か作っていて、皆食べたいタイミングで食べて、それでうまく回っている。
山では手に入らない調味料は貴重品だけれど、精一杯我慢して少しずつ使うより食べたい物を食べようというので、皆んなけっこう気にせず使っている。

猫達の中にも野菜を好む者も居て、和人が席を立って歩き出すと四匹がついて来た。
タネ婆さんは猫達の顔を見ると、残った油で魚を揚げ始めた。
猫達のために、一旦冷まして置いておく。
魚の焼ける匂いに反応したのか、他の猫達もゾロゾロとやってきた。
皆それぞれ好きなところに座って食べ始める。

ここに居るのは人間数人と猫達で、他の者は川遊びに行っている。
犬達は、皆そっちについて行ったらしい。
今日も暑いので、冷たい水の流れる川は天国だった。
泳いだり、釣りをしたり、足だけ水に浸けてのんびりと座っていたり、楽しみ方は色々だ。

「そういえば今日面白いもの見たんだけど」
タネ婆さんの近くで魚を食べていた三毛猫が言った。
「ちょっと遠くまで行ってみたら、人間の足跡っぽいのがあったよ」
「本当?ついに誰か探しに来たとか・・・」
タネ婆さんを手伝っていた茜が、少し心配そうに言った。
「そういうのじゃないと思う。多分」
「私らの他にも、どっかの村から逃げてきて山に入ってる人間が居るのかもねぇ」
タネ婆さんの言葉に、三毛猫は「そっちだと思う」と答えた。

他にも、その時一緒に居たから足跡を見たと言う猫達が数匹居た。
皆考えは同じだった。
開発を進めている彼らが追ってきたとかではなく、同じように山で暮らす誰かが居るのではないかと見ていた。
「それだったら、会えたら情報交換出来るかも」
「明るいうちに行ってみる?」
「食べ終わったらちょっと行ってこよう」
「行くんなら乗せていってやるぜ」
「ありがとう。リキ。助かる」

和人と茜に、リキがついていってくれる事になった。

「気をつけて行っておいで。こっちは夕食作りながらゆっくり待ってるから」
集まった皆でゆっくり昼食を楽しんだあと、出かける二人をタネ婆さんが見送った。

山に暮らす家族との出会い

人間の足跡らしき物を見つけた数匹の猫の中から、案内には雌の黒猫が来てくれることになった。体のサイズは少し小さめで、全身真っ黒な毛並みがツヤツヤと光っている美しい猫。
リキが馬ぐらいの大きさになって皆を乗せてくれた。
黒猫が一番前で、茜が真ん中で、後ろに和人が乗った。

「目的地までは飛ばすから、しっかりつかまってろよ」 
「了解」
揃って答えると、リキは風のように疾走し始めた。

道案内の黒猫とリキとのテレパシーのやり取りは、和人と茜も断片的に分かるけれど全部は受け取れなかった。とにかく速い。
走るスピードも速いので景色を楽しむような余裕はないけれど、風を切って木立の間を縫うように走る爽快感は最高だった。

やがて、リキは速度を落としてゆっくり走り始めた。
目的地が近いらしい。
「たしかこの辺りだったと思う。そう。そっちの方」
黒猫が伝えてくれている。
和人と茜も、地面の方に目を向けて足跡を探す。
少し進むと、丈の高い草が掻き分けられたような場所があり、地面にも人が通ったらしき痕跡が見つかった。
「あった。多分これだな」
リキは歩く速度にスピードを落として、人が通った痕跡のある場所を奥へと進んで行った。

たしかに、何度も人が通ったように道が出来ている。
普段からここが通り道になっているのか、地面が踏み固められているような感じだった。
「もし誰かいたとして、相手が友好的とは限らないよね」
黒猫が言う。
「たしかにそれは言えるな。この辺りに誰か住んでたとして、他の人間には関わりたくないと思ってるかもしれないし、敵対する感じじゃなくても怖がってることもあり得るし」
和人は黒猫に同意してそう言った。
「そうよね。慎重に行かないとね」
茜もそう言って、リキはゆっくり目に進んでくれた。

「そろそろ降りて歩いた方がいいかも。誰かいるとしたらこの辺で会うかもしれないし」
黒猫が言うので、その通りだなと思って二人とも降りた。
黒猫も、二人の後から身軽に飛び降りた。
「乗せてくれてありがとう。リキ」
リキは、スーッと小さくなって普通サイズの猫になった。
普通サイズと言っても黒猫と比べると倍ぐらいの大きさで、どっしりした存在感だ。
「そうだよね。その大きさ方がいいかも。馬みたいに大きいと怖いもんね」
「人が居るとして、その人達からリキの姿が見えるかどうかわからないけど。見えた場合さっきのサイズだと威圧感あるよな」
自分はもう見慣れたから何とも思わないけど、形は猫でサイズだけ大きいわけだから、初めて見たら怖いかもと和人は思った。

二人と二匹が歩いていくと、たしかにこの先に、人が住んでいるような気配があった。
「誰か居るよね」
茜が言った。
「うん。居ると思う。すごく近いかも」
和人がそう言って、そのまま数メートル進んだ時、目の前に木刀を持った少年が立ち塞がった。

丈の高い草の陰に隠れてこちらの様子を伺っていたのかもしれない。
道理で気配が近かったはずだと和人は思った。
少年は、十代半ばぐらいの年齢に見える。
背が高い方ではないけれど、日焼けした体は筋肉質で逞しい。

急にやってきた和人と茜を見て、油断無く身構えている様子だ。
(この辺りに住んでいて、入って来た俺達を侵入者と見たのかな。そう思われても無理は無い)
和人はそう思って、何と説明しようか考えているうちに、先に茜が話し始めた。
「急に来て脅かしてしまってごめんなさい。人が通ったような跡があったから、この辺りに誰か居るのかと思って来たんだけど。私達は戦いに来たわけじゃなくて・・・」
言い終わらないうちに、少年の後方からバタバタと足音がして、数人が走って来た。

「どうしたんだ!」
「誰か来たのか!」
叫んでいる男性の声が聞こえた。
最初に来たのは、和人より少し年上位かと思われる若い男だった。
背は高く無いが逞しい体つきが、少年と似ている。
そういえば顔も似ているようで、親子かと思われる。
その後ろから、年配の男が走って来た。
見たところ六十歳前後の感じで、髪は半分白くなっているけれどまだ若々しさが残っていて、十分に体力があり元気そうに見える。
この男性も何となく、先に来た二人と雰囲気が似ているので、全員家族なのかもしれないと和人は思った。
さらに後から、年配の女性と若い女性、それに子供達が来た。
子供達は三人居て、最初の少年よりも皆幼い。

和人と茜は、この人達に取り囲まれるような形になった。全員が無言で見つめてくる。
少年と同じく、男性二人は木刀を持っている。
年配の女性は鎌を持っていて、草刈りでもしていたからそのまま持ってきただけかもしれないが何となく不穏な感じがする。
それでも、すぐに襲いかかってくる様子は無いのが伝わってきて、和人はとりあえず少し安心した。
「急に来てすみません。驚かせてしまって」
さっきの茜に続いて、和人もまずは謝罪した。
「俺達は、ここよりもさらに山奥に住んでいます。住み始めてまだ日が浅いのですが。これからも住み続けるつもりですし、近くに誰か同じような感じで暮らしている人が、もし居たら心強いなと・・・」

「敵では無さそうだな」
年配の男性が言った。
「父さん。すぐ人を信用しない方がいい」
若い男はそう言って、まだ二人を睨んでいる。
(やっぱり親子だったのか。多分ここに居る全員家族なんだろうな)
疑われても仕方ないと、和人は思った。
(開発を進めている連中が、スパイを送ってこないとも限らない。人を滅多に信用しない事は、自分と家族を守るために必要なのかもしれない)

「よろしかったら、私達の住んでいる場所を見ていただけませんか?山に住んでいるというのが嘘でない事を、わかっていただけるかと思います」
茜がそう言うと、何やら皆で話し合い始めた。

「もう!めんどくさいねぇ。人間って」
三毛猫が、スッと前に出て、ズンズン歩いて進んで行った。
二人を取り囲んでいた家族達も、猫が来たぐらいなので警戒はしていないらしい。
これが、大型犬とかだったら脅威だったかもしれないけど。
猫は、行手に立ち塞がっている人々の足元をスルリと抜けていった。
すると、向こうから猫が数匹寄ってきた。
その後ろから、犬が二匹歩いてきて、山羊や鶏も来た。
動物達の会話は、こっちにも伝わってくる。
三毛猫が、こちら側の事情を動物達に説明してくれているらしい。

「俺達が危ない人間じゃないって話してくれてるみたいだな」
「私達が頼りないもんだから、猫さんが頑張ってくれたみたいだね」
「良かったな。大丈夫そうだ」
リキが、二人の足元に来て言った。ここの家族からは、リキの姿は見えていなかったのかもしれない。リキが気配を消しているのもあり、昼間なので余計に見えにくいのか。
仮に見えていたところで、三毛猫の時と同じく猫に関しては全然警戒していないから、気にしてないのかもしれない。
動物達が続々と集まってくるものだから、やっと皆三毛猫の存在に気がつき始めたという感じだった。

「この人達は敵じゃないよ。大丈夫」
後から来た子供達のうちの一人、十歳くらいの女の子が言った。
クルクルとよく動く丸い目が可愛らしい。
「何で分かるの?」
この子の母親らしい若い女性が聞いた。
「三毛猫さんがね、みんなに教えてくれたの。この人達は十八人で、動物達は三十六匹居るんだって。開発が進んでいく村から逃れて、山に住んでる。この人は山の主とも話してるし、猫又さんもいるんだよ」
(この女の子は、俺達と同じく動物達とテレパシーの会話が出来るらしい。良かった。それなら話は早そうだ)
「伝えてくれてありがとう」
和人と茜は、揃って感謝を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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