この話だけ読むと、何のことか分からないと
と思います。
1話の前に設定や内容の説明書いてます。
よろしければ見ていただいて、
もしご興味あれば1話からどうぞ。
作戦を立てる 竈門炭治郎
鬼舞辻議員のアカウントを見ると、フォロワー数が十万人に届きそうな勢いだった。議員秘書の黒死牟のアカウントを見ても、その半分くらいのフォロワー数は獲得している。
これを見ただけで気が遠くなってくる。
自分達が細々と発信したところで、これにどうやったら勝てるというのか。
それに相手には社会的地位がある。
こっちはただの高校生だ。
高校生と言っても芸能人だとかオリンピックに出たとか高校野球で活躍したとか、何か特別な目立つものがあれば違ってくるかもしれないけれど。
俺も善逸も伊之助も、あいにくそういうものは持っていない。
先生達にしても、言ってみれば一般人だし・・・
おまけに鬼舞辻議員には、魅力を感じて人が寄ってくるだけのカリスマ性があるようで、これは前世から変わらない。
理事長も言っていたけれど、今世では鬼ではなく普通の人間はず。
それなのに・・・もう若くはない実年齢のわりに、見た目年齢が驚くほど若い。
ほとんど人間離れしていると言っていいレベルで、それもカリスマ性を強める要因の一つになっていると思う。
黒死牟は年齢が公開されていないけれど、もし鬼舞辻と年があまり変わらないとすれば、やはり見た目の若さはあり得ないレベルだ。
鬼舞辻がイケメンなのも前世から変わっていない。
そのせいか年代問わず女性ファンも多い。
イケメンでエリートで、それに加えて政治家という立場。
金、権力、美貌は人を惹きつけて止まない。
それは今も昔も変わらないと、前世の記憶を辿ってみても思う。
考えれば考えるほど勝ち目が無い気がして絶望感が襲ってくる。
けれど・・・だからといって諦めるわけにはいかない。
戦う前から逃げていてどうする。考えろ。突破口を・・・
放課後の教室で、一人であれこれ考えているうちに気がついたら三十分以上経っていた。
理事長から提案があったSNSでの発信。
まずは敵を知ろうと思って鬼舞辻議員のアカウントを見たら、そこに圧倒的な影響力が見えて凹んでしまった。
ここでいつまでも悩んでいても仕方ない。
そろそろ帰って店の手伝いもしないといけないし・・・
そう思って立ち上がったところで、教室の扉がガラッと開いた。
「竈門少年!まだ残っていたのか!」
「すみません。煉獄先生。もう出ます」
煉獄先生はおそらく今日当番で、生徒が全員帰ったかどうかの見回り中だと思う。
「深刻な顔をしているようだが、何か悩み事でもあるのか?」
「実は、そうですね。ここでは言えないことで・・・」
俺が声を抑えてそう言ったことで、煉獄先生も察してくれたらしい。
「そうか。悩むのは分かるが一人で悩んでも答えは出ないぞ。皆に相談するといい」
「そうですね。一つだけ聞いていいでしょうか?」
「うむ。何だ?」
「自分より圧倒的に力が上の敵と戦う時、どう戦うべきだと思いますか?」
「竈門少年。君の場合は方法論よりも信念で戦えるはずだ。それが出来る人間だと俺は俺は思うのだが。違うか?」
煉獄先生は、おそらく前世の俺の事を言っている。
前世では出来た事なら今だって・・・
俺にはその記憶があるし、あの頃のように鍛錬はしていないけれど性格的には、前世の俺も今の俺もほとんど変わっていない気がする。
それなら、出来ないはずがない。
あの時も、皆が助けてくれた事が大きかった。
今だって、俺一人で戦うわけじゃない。
皆の力が合わさったなら、出来る。超えられる。
「ありがとうございます。守りたいものがあるのは前世も今も変わりません。一人で無理なら皆んなに知恵を借ります。俺はやれると思います」
視点を変える 我妻善逸
前までのだと個人情報全部入ってるから別に作ったけど、現在ゼロからどうやって見てもらえるものができるか・・・
考えながらストローでシャカシャカと氷をつついていると、半分くらい溶けてしまっていた。
ここは、学校の近くにあるセルフサービスのカフェ。
溶けた分をストローでズルズルとすすって、再びスマホの画面に目を落とす。
「珍しく考え事?」
「ヒィッ!冷たっ」
よく冷えた飲み物のカップを、頬に押し付けられた。
「もぉ!やめてくださいよ。びっくりするでしょうが。ここで炭治郎と待ち合わせなんです。この前言われたこと俺も考えてるんで」
俺に話しかけてきたのは、生徒の間では輩先生とも呼ばれている美術の宇髄先生だった。
「俺も待ち合わせだし。ここいい?」
「どうぞ」
俺の向かいに座ったこの人は、いつ見ても腹立つほどイケメンで、今も店内にいる女達がこっち見てる。
「そりゃあね。モテる人はいいですよ。特に頑張らなくてもすぐフォロワー増えるんだから。相手側のあのフォロワー数見てもビビんないでしょうよ」
嫌味の一つも言いたくなる。
「知名度や影響力ってとこで考えれば、俺だってあいつらには遠く及ばない」
宇髄先生は少し声を落として、固有名詞を避けて言った。
「それはそうでしょうけど。でもそれ言ったら身も蓋もないでしょうが。それでも勝たないと・・」
「同じ土俵に上がるなってこと」
「へ?」
「こっからは自分で考えな」
「何でだよ?!教えてくれたって・・・」
俺は思わず敬語も忘れて文句を言いかけた。
「理事長が言ってたこと思い出してみな。・・・あっ、煉獄来た。竈門も一緒か。四人で話してても目立つし俺ちょっと離れるわ」
「あっ!宇髄先生。こんにちは!善逸。遅くなってごめん」
煉獄先生と炭治郎が、一緒に店に入ってきた。
宇髄先生が立って、炭治郎に「ここ座れよ」と言って席を譲る。
「煉獄。飲み物買ったらテラス席行こっか」
「外は暑いぞ」
「お前の声でかいから中だと迷惑なの。氷でも買っといで」
宇髄先生と煉獄先生はテラス席へ行って、俺は炭治郎と向かい合って座った。
「炭治郎。同じ土俵に上がるなってどういう意味だと思う?」
「意味は分かるけど何に関して?」
「どうやったって勝てる気がしないって俺が思ってたら、輩先生が言ってくれたヒント。だけどこっからは自分で考えろってさ」
「煉獄先生は、方法論より信念で行けって言ってたな」
「煉獄先生なら言いそうだなあ。どっちもなんか抽象的だけど、具体的にどうしたらいいんだろうね。さっきからずっと考えてんだけど」
「方法論より信念・・・やる目的ははっきりしてるわけだし、俺には守りたい人達もいるから、信念はあると思う。同じ土俵に上がるなというのは、やり方的に独自路線で行けってことかな・・・知名度とかカリスマ性でいくと勝ち目ないって俺も思ってた」
「なるほどね。俺達しかやれないやり方ってのが何なのかはまだはっきりわかんないけど・・・理事長が言ってた事思い出せっていうのも、そういえばさっき言われた」
炭治郎が無言で記憶を辿っているようなので、俺も思い出してみる。
会合があったのは一週間前くらい。
理事長が言っていた事を、少しずつ思い出す。
「前世も、今も同じ。私の立場というのは役割に過ぎない」
「施設への侵入だとか危険な事をやる時には一人では危ないし、普段も何かと相談する相手として仲間が居る事は心強いね。でも一人で考えて一人でやれる事に関しては・・・例えば今日話に出たSNSでの発信とか、一人一人が自由に好きにやればいいと思うよ」
「全てを統一して同じ動きをさせたい彼らは、組織の潰し方はよく知っている」
「どこが発信源か特定出来ないバラバラな動きこそが、彼らが一番嫌がるところだからね」
「私に従おうとしなくていい。組織になろうとしなくていい」
「今の彼らの動きに気がついているのは我々だけではないと思うからね。思うままに発信していけば共振する人達も必ず出てくるはずだから」
「難しく考えなくていいってことかな」
「そうだね。むしろ自分の思うことを好き勝手発信すればいいのかもしれない。理事長の言う、組織で動くわけじゃないっていうのはそういうことなのかも。確かに組織で動いてると色んな決まり事があるから、例えば発信内容でも皆んな同じになってくる」
「分かる。そういうのなんか見かけた事あるかも。違う人なのにこれ内容全く一緒じゃない?って思うのが大量に流れてきたりとか」
「そういうのは、世論をそっち方向に持っていくためにバイト雇ってやってるのかもな」
「それとは違う動きをするって事ね。何となく分かるかも」
これからの戦いに向けて 煉獄杏寿郎
「宇髄。君の家に行くか、良ければうちに来ないか?」
会う場所は度々変えているけれど、今日は公園で宇髄と話している。
話している間に気になったことがあったので、俺は宇髄にそう言った。
「あれでしょ。俺も思ってた」
宇髄は視線だけ微かにそっちに向けて答えた。気付いていたらしい。
「前はたしか無かったと思う」
「やたら増えてるね。今に始まったことじゃないけど特に最近」
「とりあえず歩きながら話そう」
「子供達を見守るためにとか何とか言って。監視カメラ増やしまくってんのは今に始まったことじゃないけど。どんどんひどくなってるわ」
「子供が連れ去られる事件が増えたとかで、監視カメラを増やす理由にしているとしか思えないな」
「その理由作ってんのもあいつらの側だったら笑えねぇ話だわ」
「電車での刃物事件が増えたから駅構内に監視カメラを増やすとか、あれも同じ事に思えてならない」
「多分そうでしょうね。事件そのものからしてフェイクっぽいやつもあったし」
歩きながら話しているうちに、駅に着いた。
「どうする?うちに来るか?」
「そぉね。俺んとこまだ片付いてないから」
宇髄は先日引っ越したばかりだった。
住んでいたマンションの屋上からの飛び降り自殺事件があって、その後しばらく友人宅に泊まりながら転居先を探していた。
今度の住居は、以前より職場からは近い。
宇髄は、ここに入ってきた時から何か思い出している様子だった。
「今世では初めて来たけど。何となく見覚えあると思ったら、ここってずっと変わってないのね」
「そうだな。大正時代から、いやもっと前からだが・・・家の敷地や建物の感じは基本的に変えていないらしい。傷んだ箇所はその都度修繕してはいるのだが。今はこういう家はあまり見なくなったな。現代風の建物や暮らしに慣れている者からすると暮らしにくいかもしれないが。俺はここが好きだ」
「俺もこういう感じ嫌いじゃないぜ。一人暮らしだとマンションのが気楽だから今はマンションだけど・・・広さは別としてうちの田舎の家も建物こんな感じだわ」
宇髄は、門を入って玄関までの道をゆっくり歩きながら、何やら懐かしさに浸っている様子だ。
「前世は何回かここで、親父さんと話した事あったわ。親父さんは記憶無いんなら俺の事初対面と思うでしょうけど」
「父は多分覚えていないと思う。父だけでなく母も弟も。もし前世の事を覚えていたらもっと色々心配するだろうから、覚えていなくて良かったと思う」
玄関を開けると、弟の千寿郎が迎えてくれた。
父と母はまだ仕事中らしい。
父の経営する剣道場と、母の書道教室も、この敷地内にある。
客間として使っている和室へ行くと、千寿郎が水羊羹と麦茶を持ってきてくれた。
「どうぞゆっくりしていってください」
千寿郎は中等部だが、キメツ学園の生徒なので宇髄の顔は見知っている。
「どうした?宇髄」
「いや・・・何でもない。ちょっと、ここに来た覚えがあるなって思っただけ」
「君が思い出したのは、前世、俺が死んだ時の事だろう。ここは客間で一番いい部屋だから、通夜の時に通されたのはおそらくこの部屋だと思う。畳や障子襖は何度も変えているから当時のままではないが、建物の造りそのものは変えていないし場所は同じだと思う」
「サラッと言わないでよ。俺も思い出すと辛いし」
「人の命が終わる事は、そう悲しむべき事でもないと俺は思う。生きる事の意味も、大切なのは長さではないと思う。俺はあの時の事を悔いてはいなかったし、人も他の動物も産まれて生きて死んでまた次の世代につながっていく」
「まあたしかにそれはそうなんだけどね」
「それにまた君と会えた」
「それは俺も嬉しいわ。今度は俺も居るし大丈夫だとは思うけど長く生きてよ」
「わかった。無茶はしない」
「さすがだな。やはり君は美しいし女性にも人気があるのだろう」
この間の会合からまだそれほど日も経っていないのに、宇髄が新しく作ったアカウントにはフォロワーが千人以上ついていた。
ウイッグやカラコンを使って容姿を変え、サムネイルに自分の写真を使って、静止画像をバックに音声だけの動画をあげている。
インスタの方も、一言だけのメッセージと自分の写真。
こちらもフォロワー数は千を超えている。
「一万くらいすぐ行きそうだな!それにこの感じだと君とはわからないだろうから、おそらく身バレする心配は無いと思う」
「声だけで俺を特定できるやつがいるとしたら、学校内くらいしかないからね。あと昔の知り合いとか。一応声の調子変えてしゃべってるつもりだけど」
「普段の君の話し方とかなり違うから、多分バレないと思う」
「だといいけど」
動画の中で話す宇髄の声は、低く抑えた感じでゆっくりしたペースだから
普段と雰囲気が全然違う。
よほど宇髄をよく知っている人間でなければ、繋げて考えられる者はいないと思う。
「お前のも見せてよ」
「君のような華やかさは無いし、大して面白くないぞ」
俺は、スマホの画面を開いて宇髄に差し出した。
学校教科書では教えられていない歴史上の人物の逸話や、あまり詳しく語られていない出来事、歴史の裏側。
その事が今の時代に、どういう風につながっているか。
そういった内容を、俺のはどちらかというと映像より文字で、ブログやツイッターを使って発信している。
フォロワー数は宇髄と比べるとまだ半分程度だ。
「面白いんじゃない。お前の知識生かせるし。歴史好きな奴も少なくないし」
「歴史の裏側は、調べれば調べるほど面白くてな。その頃意図的に表で流された情報と、おそらくこれが真実と思われる情報は、真逆の時がいくらでもある。俺も知らなかった事が多かった」
「結局今も同じだからね。その頃からずっと続いてるってなれば、分かる奴には分かる」
「あ・・連絡来てるわ」
宇髄が、自分のスマホを確認している。
俺の方にも通知が来ている。
理事長からの連絡が来ているらしい。
この事に関わっている理事長含め十三人の間では、情報を全部共有している。
今も同じ内容が届いているので、お互いに確認しなくても話は早い。
「またか・・・やっぱこれやんのって命懸けだわ」
「今はまだいいが、フォロワーが増えてくれば俺達も、余程気を付けないとまずいという事だな」
「鬼舞辻は今は人間でも、理事長を狙ったって事はおそらく前世の記憶持ってんでしょ。俺達もそうだし生徒のあいつらも・・・顔覚えられてる可能性はあるわ」
「万が一身バレすれば、完全にまずい状況になるな」
俺達のやろうとしている事は、今までに知り得た事実を世の中全体に向けて広く発信していくという事。
それと同時に、場合によっては大正時代の鬼殺隊の時と同様に、戦いによって彼らの企みを潰していく事。
戦いの部分は別として発信の部分では、こういうことをやっているのは俺達だけではない。
自分達も発信し始めた事で他の人の発信も見るようになり、そうすると思った以上に発信者の数が多い事に気がついた。
特に増えたのは数年前の2020年あたりから。
中にはもっとずっと前から彼らの企みに気がついていて、十年、二十年、三十年に渡って発信し続けている人もいる。
そして影響力が出てきた人物は、おそらく彼らの手によって消されている。
今入った報告で、今月すでに三件目だった。
数万人のフォロワーがいる発信者が、ある日突然不審な死をとげる。
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