黎明の休息 竈門炭治郎
二次創作小説の続きです。この記事から読むと何のことか分からないと思います。内容の説明と第1話はこちらです。こちらから読んでもし興味ありましたらどうぞ^ ^
敵から奪ったワゴン車に全員で乗り込み、目的地に近づくと消防車のサイレンが聞こえた。
関係ない場所かもしれないけれどすごく近いし、もしかしてと思った。
更に近づいてみると案の定、消防車はあの病院の前で止まっていた。
ここに突入した皆は無事なのか。
そう思った時にちょうど、一斉送信での連絡が入った。
「宇髄。全員無事だ。子供達も助け出せて、これから離脱するらしい」
運転中で連絡内容を確認出来ない宇髄先生に、煉獄先生が伝えた。
「良かった。だったらここに居る意味ねぇな。ややこしいことにならねぇうちに離れるか」
「俺の家に来るといい。両親には連絡してある。病院から離脱した皆にも伝えておいた」
「この車どこで捨てる?」
「この近くに置いておけば、一応返したことになるのではないだろうか」
こっちが乗っているのは盗難車だし、しかもおそらくこの病院の所有の車だ。
後ろ暗いところは向こうだって大いにあるだろうから、自分達も情報提供しないといけない危険は避けて届け出はしないだろうし、何も言ってこないと思うけど。
煉獄先生のご両親が、車二台でこっちに迎えに来てくれるらしい。
子供達は、さっきカナエ先生が車で来てくれて預けたから、今は俺達七人だけだ。
車二台で全員乗れる。
玄弥さんは、不死川先生に電話していて、お互いの無事を喜んでいる。
山の中での戦いも病院の地下の方も、怪我人は出たけれど誰も命を落とすことなどなくて、本当に良かった。
「降りて歩くぞ」
宇髄先生がそう言って、車を止めた。
病院から見えるくらいの近い位置だけれど、外にいる人達は皆んな火事に注目していて誰もこっちを見ていない。
俺達は静かに車を降りて、この場から離れた。
怪我人が三人。
血だらけの姿を見られると絶対に不審に思われるけれど、幸運な事に深夜で辺りは暗いし人通りもほとんどない。
病院の地下から助け出された子供達は、衰弱しているものの誰も怪我はしていなかった。
全員、一旦煉獄先生の家に預けられた。
こっちで助けた子供達も、カナエ先生から連絡があって健康面は問題ないということだった。
今日はゆっくり休ませて、明日ここに連れてくるらしい。
煉獄先生の家は敷地も広くて部屋も沢山あり、長年勤めているお手伝いさんも何人も居るみたいだから、俺達が皆んなでお邪魔しても大丈夫らしい。
身元が分かっている子供に関しては、これからちゃんと家に戻れると思う。本当に良かった。
怪我をした禰豆子は手当受けて、月曜日から普通に学校に行くと言う。
心配する俺に「お兄ちゃんは大袈裟なんだから」と言って笑った。
まだ中学生だし子供だと思っていた禰豆子にしても、千寿郎君にしても、俺が思うよりずっとしっかりしているということが今回分かった。
善逸も、怖がっていた割にいざとなると強い。
前世と同じだ。今も。俺は一人じゃない。
頼りになる仲間が周りに沢山いる。
煉獄先生も宇髄先生も怪我をしていて、出血量も多いし多分禰豆子より重傷だと思うけど・・・自分達で簡単に手当てをしただけで平気な顔をしている。
見ているこっちの方が心配でハラハラする。
今は、明け方のまだ薄暗い時間。
皆んな一晩中走り回ったからヘトヘトに疲れている。
久しぶりに、夜に鬼を狩って走り回った前世を思い出した。
ここに来てお風呂場を借りて浴衣も借りて、清潔で広々とした畳の部屋で、座布団や枕を置いて皆んなで仮眠を取っている。
今日が日曜日で助かった。
俺達生徒は、明日学校だとしても最悪「体調が悪い」と言って休むこともできるけど、先生達はそういうわけにいかない。
全員まだ若いし前世鬼殺隊柱だったとは言っても、このまま休まずに出勤はさすがに辛いと思う。
煉獄先生のご両親は、車が一台大破した事も「誰も命に別状なくて良かった」と全く気にかけていない様子で、さすがお金持ちの余裕だと思う。
あの車の値段で、うちなら家一軒買える。
千寿郎君が連れ去られたこと、今回の戦いの事で、煉獄家にはもう俺達のやっている事が完全にバレたから、話して協力してもらうことになった。
この戦いのとことは出来るだけ周りを巻き込まないようにと、俺達は家族にすら知られないよう隠してきたけれど。
俺も、妹の禰豆子には知られてしまった。
知られただけでは済まず、危険な事に巻き込んでしまい、怪我までさせてしまった。
けれど、これからは絶対に守る。
一方的に守られるだけの弱い存在ではない事は、今回で十分分かったけれど。
カナヲにも「皆んなに隠して何かやってるの?」と聞かれたたことがある。
何とか誤魔化したけれど、気付かれていた。
女性の感覚はやっぱり鋭い。
カナヲは前世鬼殺隊士だったし、言ってもいいのかもしれないけれど。
カナヲを特別に大切に思う俺の個人的な気持ちで、危険な場所には出てこないで欲しい。
俺達が休ませてもらっているこの部屋は、エアコンが効いて涼しいし清潔で広々としていて、すごく心地いい。
枕と座布団を並べて、皆んなで横になっている。
禰豆子と善逸はもう寝ているし、用事を手伝っていた千寿郎君と玄弥さんも戻ってきた。
俺も疲れているのか、少し瞼が重くなってきた。
襖を隔てた隣の部屋から、まだ起きている先生達の話し声が聞こえている。
もう戦いは終わっているから危険は無いものの、別行動だった伊之助と無一郎君の事だけは、皆んな気にしていた。
連絡はついて、こっちに向かうように伝えたらしいけれど。
戦いは終わっていない 嘴平伊之助
「何だ?!あいつらやられたのか!?」
「大丈夫。連絡があったから。怪我した人は居るけど誰も死んでないよ」
車・・・というのか車だった物が、見る影もなくバラバラになって黒焦げになっている。
爆発物が何かで吹っ飛ばされたんだろうが、人が乗っていたとしたらまず助からない。
「げっ!!!何だこれ人の腕か!?」
「人じゃないよ。ここ見て。戦闘用アンドロイドだ」
たしかに。切断面から中の機械や千切れた配線がのぞいている。
車の残骸から少し離れた所に、人体の一部らしき物が転がっていたから、一瞬人間の腕か思った。
「爆発で飛ばされて、バラバラになった物が飛んだんだろうね。おそらく一体だけ。他には無さそう」
「たしかにもう人もいねぇし、ここでバラバラになってんのはそのアンドロイドだけだな。他の奴らはどっか消えたか、あいつらが全部倒したのか?」
車の状態と、戦闘用アンドロイドの千切れた腕を写真に収める。
「敵側には人間も居たみたいだよ。昏倒させたけど死んではいないはずだって連絡きたから。気がついたのならもう逃げたかもしれないし、それかまだ倒れてるかも」
「行ってみるか」
俺達は懐中電灯を持って山に入った。
ここでも病院の地下でも戦いは終わったから、もう戻って来いと連絡はきたけれど、どうなったか最後まで確かめておいた方がいいように思う。
一応懐中電灯は持ったが、すぐ下が道路で明るめの街灯もあるし、月明かりもあるから真っ暗闇というわけでもない。
ワゴン車が止まっていたのが、大破した車の先数十メートルほどの場所と聞いている。
そのあたりの場所から見当をつけて上に上がる。
「血の匂いだ」
「そうみたいだね」
山に入って少し進んだところで気がついた。
風に乗って流れてくるのは、明らかに血の匂い。
怪我人が出たっつっても、そんなに大量の血が流れるわけないだろうし・・・
矢が掠って手足に傷が出来たとか、石を投げて敵側の奴の額が切れて血が出たとかは聞いたけど、それにしたってそんなに・・・
考えながら歩いていくと、目の前にその答えがあった。
男が死んでいる。三人だ。
あついらが山で戦った相手は全部人間で、三人居たと聞いた。
「殺されたわけじゃない。自害したみたいだね」
三人とも、自分の持っているナイフで喉を切って死んでいる。
切れた頸動脈から大量に噴き上がった血が、あたりの木々と地面を赤く染めていた。
死んでからまだ時間は経っていない様子。
これだけの血液が流れれば、当然血の匂いが漂ってくるわけだ。
こっちも色々と知られたくない事はあるわけで、警察に通報するわけにもいかない。
「写真だけ撮っとくか」
「一応両方で撮っとこう」
二人同時にスマホのカメラを向けた時、何かが顔の近くを掠めて飛び、背後の木に突き刺さった。
「何だ?!」
「伏せろ!撃ってきてる」
更に続けて数本、違う方向から同時に何か飛んできて木の幹に刺さった。
そうか。相手はボウガンか何かで矢を撃ってくると、そういえば聞いていた。これの事か。
さっき地面に伏せた時に、持っていたスマホの画面が近くの石に当たって割れた。
これはもう使えないかもしれない。
「相手が何人いるかもわからない。今の状況では不利だ」
「戦わねぇのか?!」
「声が大きいよ。・・・囲まれている。俺達が捕まりでもしたら、他の皆に一番迷惑がかかる。全員倒すのが難しいなら離脱した方がいい。離脱も簡単じゃないけどね。前の奴を倒して突破しよう」
「こっちも動きにくいが、狙われねぇためには明かりは消した方がいいな」
「そうだな」
懐中電灯は消した。
普段は傘に見せかけて縮めた状態で持ち歩いている鉄パイプの武器を、最大の長さまで伸ばした。
二本の鉄パイプを構え、姿勢を低くして走り出す。
後ろから撃ってきている矢が何本も、頭上を掠めて飛んだ。
目の前の奴の姿が見えた。
鉄パイプを下から振り抜いて武器を叩き落とし、もう一本で喉元に突きを入れる。
うめき声がして相手が姿勢を崩した。人間だ。
隣では、時透が二人の敵を同時に倒していた。
横に薙ぎ払うような打撃。速すぎて全ては見れなかった。
中学生とはいっても、やっぱりこいつ前世柱だっただけある。
体勢を崩して倒れかける三人の敵の体に、向こうから撃ってきている矢が何本も突き刺さった。
奴らが俺達を狙って撃ったとしても、このやり方では味方に当たるのは当然で・・・
「味方じゃねぇのか?!」
「あいつらには関係ないみたいだね」
俺達は、振り向かずそのまま走った。
敵の誰かの断末魔の叫びが、いつまでも耳に残った。
山を降りるところまで一気に走った。
敵はもう追ってこない。
というより、最初から追ってきてはいなかったかもしれない。
「追ってきてなかったのか?」
「写真を撮らせないことと俺達を追い払うだけが目的だったんだろうね。おそらく死んだ奴三人の死体を始末しに来たら、俺達と鉢合わせたってとこかな」
なるほどそういうことか。
確かに、この場合俺達を殺しても、あいつらにとって後が面倒になるだけかもしれない。
「あいつら撃ってきてたけど、俺が倒した奴は人間だったぞ」
「こっちも一人は人間だった。味方でも道具としか思ってない。そういう敵だってことかな」
家に連絡して、タクシーで迎えに来てくれるように頼んだ。
夜中に年寄りを呼び出すのは流石に悪いと思うし気が進まないが、今回は仕方ない。
俺達の年齢で深夜にうろついて、補導されでもしたら面倒だ。
敵側が隠している事 宇髄天元
後から到着した時透と嘴平、タクシーで送って一緒に来てくれたヒサ婆さんを迎えて、全員の無事を確認した。
三人は、竈門達の所へ行って無事を喜び合ってから隣の部屋へ案内されて行った。
山でもまた物騒なことがあったみてぇだけど、死人や怪我人が出なくてよかった。
「煉獄。傷大丈夫か?」
「俺はこれくらい何ともない。君こそ大丈夫なのか?浅い傷ではなかったように思うが」
やっぱりこいつは自分より人の心配ばっかりしやがる。
「俺は平気。久しぶりにいい運動したからさすがに疲れたけどね。明日日曜でゆっくり寝れるし助かったわ」
「それはそうだな。俺も、普段剣道で一応鍛えているつもりでいたのだが、今回は疲れた」
部屋に置いてある枕と座布団を取ってきて、並んで横になった。
「お前んとこ来んのってそういや初めてね」
「いつも俺が君の家に行ってばかりだったからな。もう家族にもどうせバレだから、これからはここで話してもいいと思う。盗聴器が無いかどうかは一応両親他ここに居る全員で確認したらしい。千寿郎を連れ去ったくらいだから、ここに簡単に侵入したわけだし。盗聴器があってもおかしくないが」
「確かにここも知られてるし安全とは言えないけど、他に場所が広いとこっていうと理事長んとこぐらいでしょ。それこそ一番監視されてる場所だし。それよりはここのがマシでしょ」
「そうだな。理事長は命まで狙われたことがあるから一番気をつけないといけないと思う。家にも盗聴器があるかもしれないしな。今のところ俺はまだ大丈夫だと思う」
「お前のブログもなかなか攻めた内容だし閲覧数上がってきてるからね。油断するなよ」
「わかっている。君も人気が出てフォロワーが増えているからな。あのメッセージに気がついてる人も多いと思う」
「俺は大丈夫。今回だってたいがい危ない事やったけど誰も死んでないでしょ。きっと運がいいんだわ。俺ら全員」
「それはそうかもしれないな。君が言うと、根拠が無くてもなぜか安心出来る」
煉獄は柔らかく笑った。
そのあとは、疲れていたのかすぐに目を閉じて、静かな寝息を立て始めた。
俺達と同じ部屋で、煉獄の向こう側で横になっている冨岡と不死川も、さっきまで話していたのがいつの間にか眠ったようで静かだ。
ガキどもはもう爆睡してんだろうけど、理事長や悲鳴嶼さんはまだ話しているのか・・・ここの隣はたしか伊黒と甘露寺のはずだけれど、もう寝たのか話し声は聞こえない。
言論統制は日増しに厳しくなっている。
メディアを通じて表で報道されている内容以外の事を書いたり話したりしているアカウントは、ことごとく消されている。
さらに、そういう発信をしているのが影響力のある人物であった場合、その人物が不可解な死を遂げることも少なくない。
今までにも何となく、この世の中は表に出ている情報が全てではなく、隠されている情報があるのではないかと感じていた。
けれど俺が生まれてから今日までの間で、ここまで露骨な事はなかった。
本当にひどくなったのはここ数年の事だと思う。
これから何が起きようとしているのか。
大正時代のあの頃も、一般大衆には知られていない鬼という存在が居た。
鬼は人間を食糧とし、鬼の始祖である鬼舞辻無惨が血を与えた人間は、鬼となり他の人間を襲う。
一般大衆には知られぬように、密かに、夜の闇に紛れて活動し鬼を狩る。
それが俺達の使命で、俺達はその戦いに勝った。全員の力で。
しかし今度は・・・あの頃よりも更に敵の存在は強大だと感じる。
一般大衆から見れば絶対的権力を持っている国の機関をも、抱きこんでいるように思える。
鬼舞辻無惨よりも、更に上の存在がいる。
一番上に居る存在は、決して表には姿を現さない。
人間の脳を好きに操作し、自分達の不老長寿のためには人間の子供を虐待して殺し、人々の情報を集め操作して、完全な支配体制を作ろうとする。
人間を鬼にして、記憶も自我も奪うという大正時代の無惨のやり方と、今起きている事はある意味似ているかもしれない。
奴らに取ってみれば人間は、好きに利用していい道具であり、逆らう奴を消す事はゴミを片付ける位の事に違いない。
不死川から聞いた、焼身自殺した者達の話。
時透から聞いた、山の中で自害した人間達の話。
逆らう奴を消すだけでなく、味方であっても役に立たなくなった奴は、あいつら上に居る者にとってはゴミ同然の扱いという事だ。
考えるほどに頭が冴えてきて、俺は結局朝まで眠れなかった。
続きはこちらです。
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